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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その10

李老中医 危急重症難病治療経験


その10



 11月9日三回目の診察


 上方を9時に1回服用させるが、10時30分になってもまだ汗はない。服薬時間の短縮を命じ更に1服と、鮮生姜末・紅糖・胡椒粉の煮汁1杯で薬力を助けるために熱くして一緒に服用させる。昼ごろ頭部が汗ばみ、しばらくして首回りや胸背中に汗が出たので、元気を保護し固摂するように麻黄汁を去り余った薬液を熱くして服用させた。


 11月10日四回目の診察


 昨日の服薬後、閉じた表は開き肺気が宣発し、伏寒は外透、真陽が敷かれ背部の冷感及び全身の拘束感も緩解。上肢の厥冷もすでになくなり喉の痰鳴も消失、唇と指の色も淡紅に転じた。喘ぎも治まり激しい痙攣性の咳も二日の内に一二回ほどしか現れなかった。また肺は音声の門戸であり並びに水道の通調を主どるから、汗が出た後は声が出て声枯れも治る;小便は多くなり下肢浮腫もまた退いた。脈象は緩和され脈拍80回/分となる。あれほど頑固だった心臓衰弱及び呼吸衰枯の危機から解放された。表気が通い営衛も調和し、毎回の食事には必ず僅かに汗をかき全身がのびやかになる。二日後甚だ多くの痰を吐き、胸中の閉塞感が大変すっきりする。汗法が宣発を得て、また戻ってきた人体正気の助けがあり、肺絡の湿痰がより集まった死血が少しずつ外透していくきっかけとなっているのがわかる。ただ夜明け・午後・子の刻に背を突き刺す胸痛と胸中の閉塞感との絶え間ない発作がある。すなわち痰の巣が破れたといえどもまだ死血が消えるのは難しく、通じないとすなわち痛むのだ。仲景法に従い方を改め以下のごとく:



1.附子90g、炙甘草60g、生半夏・雲苓・鮮生姜各45g、栝楼30g、薤白15g、丹参45g、檀・降香各10g、砂仁5g、桃杏仁・霊脂各15g、山茱萸肉30g、細辛20g、乾姜・五味子・白芥子(炒研)各10g、百合・生山薬各30g、白酒100ml。


冷水2000mlを加え1時間浸し、とろ火で煮て450mlを取り一日3回に分けて服用。


2.大三七100g、高麗参100g、琥珀・霊脂・紫霊芝胞子粉・川貝・沈香・土元・水蛭・冬虫夏草・全蠍各30g、黄毛茸尖50g。


粉にして一日二回、一回3gを熱い黄酒にて飲み下す。


3.炮甲珠60g、麝香2g。


粉にして20に分包し、朝晩一方ずつ熱い黄酒にて飲み下す。



この後三回の診察を経て、湯薬40剤、散薬1料を服し諸症はみななくなり、体重も漸く元に戻った。厳しい冬を経ても喘咳は起きずまた感冒にも罹らなかった。翌年の春には夫に随い県外で経営している炭坑へ行き、飯炊き・洗濯・水汲みなどをこなし、すでに健常人と変わらなくなる。1999年4月偶然町で出会いすでに病もない状態であったが、体質を強固にするために散剤を再び半年服用するように云いつけた。残念なことに炭坑の倒産によって負債がかさみ願いがかなわなかった。その年の暮にその夫と会い、患者が7月にひどい病にかかって日夜吐き下しを30回余り、手当が及ばず亡くなったことを初めて知った。



近ごろ肺間質病を賢く治すには、多くは甘涼柔潤を主として養陰清肺し、枯れた肺葉を救っている。しかし本例の病人は純粋に沈寒痼冷で病機に違いがあり、自ら仲景の温養の法に随った。もう既に肺痿になっていると肺の津液は傷つき免れるのは難しい、故に百合・生山薬のような性が平の品を選び肺腎の陰を養う。まして四逆湯中の附子は味が辛だが潤し津液を送って気を化し通ずる薬で、腎中の五液が蒸騰敷布して陽を生じて陰を長ずる、これが即ち陽中求陰で生化無窮の理なり。もし徒に養陰清肺を以って事を成せば、即ち寒涼が中をやぶり肺陰は戻らず、まず脾陽が傷つき食は少なくなり便溏となる、土が金を生じないので生化の源が尽きれば反って敗亡を促すことになる。



本病は大虚大実であるから自ずと攻補併重となり、方の2~3は培元固本散変法に似させて、血肉有情の品や先天の腎気を峻補し、人体の免疫力を建て直すものとなった。方中の化瘀薬、化痰薬、虫類薬は本病の大実に対して急所を突いてはいるが完全に消滅させる特徴をもった攻撃でも難しい、しかし根本を固め正気を助け、浅いところから深いところへ繭から糸を紡ぐように、絡に入り悪いところを探してそぎ落とす化瘀散結の緩攻の法ならば正気を傷つけず邪を攻撃できる。とりわけ炮甲珠・麝香の対薬は穿透攻破が行き届き汚れを除き汚濁を化し、諸薬を引いて肺窮に直入して湿痰死血を清除する。諸薬相合して受損した肺の実質病変を修復し生き生きさせるらしい。



                                                 続く

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