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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その14

李老中医 危急重症難病治療経験


その14




  二、中風脱症  


  城関居委積み下ろし工員 温宝興、52歳。1977年4月23日早朝5時、突然胸中の気が上がらなくなり卒倒した。自汗、遺尿、右半身不随。脈弱で寸脈はなく尺部も虚である。毫針で人中を刺したあと息をふき返したが、その声は蚊の鳴くように微かで低かった。この人は苦労の一生で、積み下ろし工員の数十年間衣食も十分でなく、労倦で体内を傷つけ腎元も衰えて久しい。昨夜0時まで車の荷積みをして、すでに汗が出て湿が肌着を通して気喘が始まっていた。治法は気血大補・温腎斂肝固脱が宜しい。補陽還五湯変法合張錫純氏来復湯加減:


  生黄耆120g、山茱萸肉60g、紅参10g(別にとろ火でゆっくり煮る)、当帰30g、白芍15g、炙甘草10g、腎四味120g、生竜骨牡蛎各20g、赤芍・川芎・地竜各10g、桂枝10g、桃仁・紅花各3g、鮮生姜10片、大棗10枚、胡桃4枚、7剤。


  4月30日二回目の診察:1剤服用し汗は引いて気喘も治まり、3剤服用して杖をついて歩く練習を始めた。7剤服用をして杖なしで歩くことができた。再び7剤を服用するように云いつけた。5月下旬百貨店で会ったら、もう通常人のように包みを持ち上げ荷積みをし、62歳になるまで訪れたが積み下ろし工を続けていて、昔より壮健になった。



  三、中風半身不随


  張亜康、69歳、城関合作商店会計。1980年4月19日初診:大変太った肥満体形で1月以来折れるほど腰が痛み、さらに夜はなはだしい。小便が余瀝し、昨晩寝る前右手足に痺れを感じていたが、今朝目が覚めたらもう半身不随となっていた。右側の口角が歪んで息や食事が漏れる。舌が短く言葉がすらすら話せない、呼吸が浅くめまいし、脈浮軟、舌淡胖で歯痕があり、舌の左側に瘀斑片が形成されている。県医院内科の診断は「脳血栓の形成」であった。


  年齢は古希に近く、体型は立派だが気は衰えている。腎元は久しく弱り肝の滋栄は失われ、気虚は運化できずに現れたのが半身不随である。補陽還五湯を加減し、益気固腎、祛痰化瘀、虫類通絡:


  生黄耆120g、当帰30g、赤芍15g、川芎・桃仁・紅花・地竜・白芥子・天南星・白附子・天麻・僵蚕・土元・桂枝・炙甘草各10g、生竜骨牡蛎各30g、鮮生姜10片、大棗10枚、胡桃4枚、以上を3剤。


  4月21日二回目の診察:薬を3剤服用し、また毎日鍼灸を曲池から少海・合谷から後谿・陽陵から陰陵、風市と足の三里にする。顔面は牽正穴に。すでに口顔歪斜も治り、言語や飲食についても問題はなくなった。手足の上げ下げもできて握力も回復した。効果あれば処方を変えず、原方を3剤。


  4月24日三回目の診察:日々の生活は自分で出来るようになり舌の瘀斑もなくなったので、三七・琥珀・紅参・全河車・止痙散各30gを粉にして一回3g、一日2回の服用を指示し、全快した。5年後訪れるも通常人のようであった。



  四、卒中前兆


  趙銀蘭、65歳、学宮巷居民。1984年1月22日初診:10年前当院の内科の診断では原発性高血圧(拡張期高血圧で常に100~110㎎/Hg)・脳動脈硬化であった。降圧剤と清脳瀉火の中成薬を長期服用していた。冬に入って以来めまいがひどくなり、手の指がしびれ膝に力が入らず足元はまるで綿くずを踏みしめているごとく。かつて何回もつまずき倒れたので、明りの下ではあえて動き回らないようにし、舌は短く言葉がたどたどしい。最近口中に潰瘍を生じ口渇で多飲多尿、舌全体が火の様に熱くて両膝は氷の様に冷たい。脈弦で広大、舌紅無苔で乾。脈と証を合参すると陰虚陽浮、竜火上燔に属す。治法は大滋真陰・引火帰元に宜しい:


  九地90g、塩巴戟肉・麦門冬・天門冬各30g、雲苓15g、五味子6g、油桂1.5g(冲)、3剤。


  1月26日二回目の診察:諸症はみな癒えてすでに杖をつきながら普通の人のように歩ける。


  3月8日の晩、患者が歩いて家に来て顔色は爽やかで平常通りに談笑したが、ただ蝉の声の様な耳鳴りがする。これは腎水が下で涸れて、そこに初春の陽升で竜火が潜蔵出来なくなった。引火湯合耳聾左慈丸に開窮の菖蒲を加える:


  引火湯加柴胡6g、活磁石・生竜骨牡蛎各30g、菖蒲10g、これを3剤服し耳鳴りもまた癒え不具合なところはなくなった。


  火不帰原や卒中の一種類型と他型の治法は大きく異なる。まさに中医の“証”と現代医学の“症”との衝突が発生した時、“症”を捨て“証”に従うことに何のためらいもいらない。一切の局部の病変はみな整体失調によって派生する。中医学の“証”は正に人体陰陽気血、五臓の生克、気機の昇降などの整体失調で、患っている病の段階的特殊矛盾の集中体現である。その中で更に明らかな“個体の特異性”を包含し、すなわち同様の病が異なる病人の身に起こり特異的な表現がある、これが重要な点である。故に“証”を治すとは即ち整体の調節であり、整体で健康が回復すれば局部の病変はいつも不治の段階から自ら治るような奇跡が起きる。



                             続く

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