李老中医 危急重症難病治療経験
その19
真熱仮寒 大実羸状あり
名医某、1964年12月26日、即ち冬至の2日後、急に奇病を患う。始め病は外感に似てちょっとした病気、三日後突然昏迷となる。気息は微弱、顔色はくすんだ灰色、手は肘まで冷たく足は膝まで冷たい、頭から汗が滴り意識は清明のような朦朧のような、六脈は有のような無のようである。某医は“傷寒、少陰亡陽、已に病重く死にかかっている状態でしばらく参附湯にて、人事を尽くして頼る”と断じたので、李院長は取捨の決断をするために私に診察を依頼した。証が云われた如くなのかを見る。それならば室内の汚れた空気が鼻に着くのがかなり不思議に感じられた。その上証情が突然変わり、寸口の脈の乱れが信用し難いので、その下の三部の趺陽・太渓・太冲を摸ると、沈実で有力しかも一息に六至以上ある。病人の舌を見たいと思ったが患者は朦朧として歯をきつく噛み合わせている、そこで患者の頬の車穴を強刺し匙で口をこじ開け、まだ舌を見る前に口中の臭気が吐き気を催すほど臭く、舌面いっぱいに黄厚燥苔がこびり付き舌根はすでに黒くなっていた。小便を尋ねると濃い茶の様でまた臭いがあり、大便は5日出ていない。小腹を押さえながらさぐると硬い板のようで、ここに至って真相がすっかり暴露された。元を知ると患者は解放前に阿片を20年以上吸っており、今に至ってなお樟脳チンキで精力を維持したためその臓腑に毒が積もったことが分かる。かつ病は冬至の後にあって陰虚の津液不足の体にちょうど一陽のまた来るときに出会い、邪が熱化から燥化しすでに太陽より転じて陽明腑実に属すこととなった。その四肢の詰まりはすなわち熱深くして詰まりも深く変化し、意識朦朧となり即ち濁気が上がり神明を空にする;頭から発汗し手は粘る、これは腑実薫蒸に属する。いろいろ証を見ると陽明の腑の熱閉であることが分かる、そして亡陽厥脱ではなくさらに真寒証が口臭の臭う人の象では絶対にない。聞けば前医は歯をきつく噛み合わせていたため舌を診察できなかったという。亡陽虚脱は手を広げ遺尿し目は閉じられ口は開かれることが多く見られ、“歯を食いしばる”はかえって実・熱・閉証など特有である。ここに至っては前医の誤診と断定できる。そこで詰まりを除く大承気合増液湯で陰を残しながら急いで下し、腑実を通じ上閉を開く、蛇足を付け加える必要がないが、さらに開竅の品を加える。
大黄30g、芒硝20g(分冲)、枳実15g、厚朴・生地黄・元参・麦門冬各30gを煎じて、2回に分けて3時間に1回服用する。
翌日診察に行くと患者は僅かに薬を1回服用しただけで、おおよそ2時間ほどで悪臭を伴う便を1回下し寝具を乱雑に取り乱して、まもなく精神爽やかに癒えたとのこと。再びその脈を診ると依然として微細で細い糸の様である。始めてその脈が“六陰脈”であることを知ったが、大実の症候があるとはいえどもその脈は変わらず、故にどうして反対に応じたのか真相は解らない。また一種“六陽脈”というのがあって、終生洪大数実であるというが、これも虚証であってもその脈は変わらない。もし脈にたよって病を判断するというのであれば、自分より下の者に問うことを潔いとしないようで、どうして病を当てられようか!人の体質稟賦は千差万別で、虚実真仮は決して一目瞭然ではない。尤もそれが危急の重証であれば、虚に至り盛んな症候があって大実が反って羸症を現す。僅かでも慎重でなかったりすると誤診をしたり誤治をしてたちまちのうちに生死が分かれてしまう。
慎重に、慎重に!
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