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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その2

李可老中医 危急重症難病治療経験集   その2



二 本方の効果と主治



  本方は今にも陽が絶えんばかりのときにその陽を救うものである。どの内科、外科、婦人科、小児科の各科にあっても危急重症、或いは激しい嘔吐や下痢、或いは吐血・下血、婦人不正出血、或いは寒温の外感病に罹り大汗が止まらず、或いは長患いで気血を殆んど消耗し尽した……陰は涸れて陽は亡び、元気は暴脱し、心衰し生命の危機に瀕したとき(すべての心原性、中毒性、失血性による不全および急症が循環衰弱を引き起こす)、症状は冷や汗が滝のごとく流れ、四肢厥冷、顔色は晄白或いは萎黄か灰色、唇・舌・指の甲が青紫、口鼻の息は冷え、肩を上げ喘ぐような息をし、口は開き目は閉じ、二便は失禁、意識混迷、息はたえだえ、脈象は沈微遅弱、一分に50拍以下、或いは細い糸のごとく散乱し、或いは脈が壺から沸きだす潮のように急に速くなり一分間に120~240拍以上、そして古代医籍に載っている心・肝・脾・肺・腎の五蔵の絶症と七怪脈の絶脈など必死の症や、現代医学が救えずに放棄した危篤の病人、おおよそ今にも心拍停止しそうで息絶え絶えの者に本方を急いで投与し、1時間足らずで起死回生、3時間で危険な状況から離脱、一昼夜で安静に転じた。



三 臨床応用



  本方は厳格な中医学弁証論治の法則を厳守し、大胆かつ繊細に病機を守り正確に病勢を判断して用いなければならない。脈と証を合わせて参考にし、もし諸症が少しでも現れたなら直ぐに服用を開始してよい。おおよそ亡陽尽陰の最初の発端である隠れた心衰の典型的な症状が出現したら(たとえば動くと急に喘ぎ胸苦しくなり、常に睡眠中に息が詰まって目が覚め、寒気がして四肢は冷え、時々眠くなり夜間多尿や、無痛性の心筋梗塞による倦怠無力、胸苦しく汗をかく等のごとく)本方の通常量を直ぐに投与する;亡陽尽陰がすでに形成されている様なときには本方を多めに投与する;瀕死の状態のときには本方を大量に投与する。服用方法は急症に急治で昼夜を分かたず時間通りに連続服用させ、病人の生命を救うために有効な血液中に薬剤濃度を保つように、重症患者には24時間で3剤を続けて服用させる。



1.肺心病による心蔵、呼吸衰弱と危機的脳症の合併症



  教育局の老幹部閨祖亮、男、60歳。1995年3月24日早朝4時緊急運ばれてきた。診察すると患者は酸素吸入して、意識は混迷。顔色は死人のような灰色、唇・指・舌は青紫、頭からは油のような汗、ゴロゴロした痰の音、口鼻からの息は冷たい、手は肘まで足は膝までも冷たい、両下肢は泥のように爛れ浮腫み、二便は失禁、血圧は測定不能、息も絶え絶えだった。聞けばこの患者は阻塞性肺気腫を患い、かつて肺心病に罹って10年に達する。今回の発病は一週間、県医院で救えず6日、病は危機的だが今後の準備で退院。昨夜子の刻突然痰が詰まって喘ぎ意識不明となった。県医院内科の診断は“肺心病による心臓・呼吸器衰弱と脳の合併症による危機的状態”すでに病重く瀕死の際にいる。脈をみると豚小屋のようにとり散らかってはしばらくして動く。昔の人は云う、おおよそ病状が重いと寸口の脈は信用できない、そこでその下の三部跗陽・太谿・太衝を按じ、細弱に属すが弁証できる。この症は子の刻に危機に瀕したが、子の刻は陰が極まって陽が生じる時刻といえるので、細い糸ながらも生き延びるきっかけがある。早朝4時になり、十二経営衛の運行が肺経に当り、本経は活発化する。病状は悪化していない、つまり命の綱はまだ絶えていない。そこでいよいよ破格救心湯の大量投与、陽が絶え固脱するにあたって、割痰の三生飲と詰りを開窮し醒脳させ呼吸衰弱を救う麝香を加える:


  附子150g、乾姜、炙甘草各60g、高麗参30g(別に濃縮して服用)、生半夏30g、生南星、菖蒲各10g、浄山茱萸肉120g、生竜骨牡蛎、活磁石粉各30g、麝香0.5g(分沖)、鮮生姜30g、大棗10枚、生姜汁小さな杯に1杯。


  病状が危急なので、上記生薬をお湯1.5Lに加え強火で煎じ、出来上がったそばから昼夜分かたず頻繁に服させる。


  3月25日6時二回目の診察:一晩で上記処方一剤を服用させ終わった。子の刻が過ぎ発汗と喘ぎが収まり、肘と膝から先の氷の冷たさがなくなってきた。顔色が灰色から萎黄で紫色は少し薄くなって、痰鳴は大いに減じた。呼びかけに応じて眼を見張るがまだ意識朦朧。六脈は遅細弱代、脈拍48、一時ほどの散らかりはなく雨漏りの象ほどで、生き返るのに望みある。原方に附子を200g追加し、他の処方は変えずに日夜連続して3剤服用させる。


  3月26日三回目の診察:患者はすでに覚醒していたが、ただ呼吸は微弱で蚊の鳴くような声、四肢には温もりが戻り横になって寝むれて少しは空腹を知る。脈沈遅弱、脈拍58、不整脈は見られない。長年来あった喉の痰鳴がなくなった。患者の妻が云うには、昨夜は大量の排尿により床まで汚してしまったが、それによって下肢の浮腫みがなくなった、これは正に大量の附子による破陰回陽の効果である。真陽が盛んになれば暗陰は自ずから消える。病はすでに危機を脱してはいるが元気は回復してはいない。続けて原方から生半夏・生南星・菖蒲・麝香を除き、附子を150gに減量し、精気を固めるために温養肝腎の四味(枸杞子・菟絲子・塩補骨脂・仙霊脾及び胡桃肉)各30gを加えたもの三剤を与える。毎日一剤を煎じ3回に分服。


  3月30日四回目の診察:諸症はことごとく除かれ食欲も出て、すでに杖をつき散歩もできるほどとなる。五日間で四回の診察の中で附子は1.1kg、山茱萸肉0.75gを用いて危機的重症から九死に一生を得て救うことができた。方中で生半夏は降逆化痰の要薬で、用いるときには温水にて3回よく洗い、さらに等量の鮮生姜を佐として加えれば解毒として、また効果を強くすることができ、かなり妙用である。

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