李老中医 危急重症難病治療経験
その28
三 小児大脳発育不全症
運輸社呉福全の子、呉紅英、2歳半、1975年2月1日初診。病となって2年、出生後間もなくわけもなく手足が引きつって、両目は吊りあがり、頭は揺れて舌を吐き出し、甚だしくは体が弓のように仰け反って息の止まらない日が一日もない。歯を食いしばるのでしばしば哺乳時に母の乳を咬んで傷つけた。かつて省の児童医院に赴き診察を受けた結果“先天性大脳発育不全症”と診断され治療法がないといって返された。途中外邪に罹り、高熱が39.7℃に達した。痰の声が鋸を曳くようで顔色は青惨、山根には青筋が現れて指紋は深紫で真っすぐ命関に伸びていた。患児は出生から今まで、喉の間から痰の鳴る声が間断なく続いていることを聞いて知った。今まで5日間大便がなかったが、偶然にも一回下痢をして諸症は少しの間好転した。証は痰熱久蘊に属し、また外邪を感じて熱極動風となった。礞石滾痰丸に似せて変え、清熱解毒・滌痰開窮・熄風止痙:
1.三稜針の点刺で十宣・十二井・両耳先から出血させ、毫針雀啄朮を素髎・双合谷に点刺すると、患児は汗をかき大声で泣き出し目を覚ました。
2.煅礞石15g、生石膏30g、牡丹皮・紫草・蚤休各15g、黄芩・大黄・天竺黄・菖蒲・郁金・胆南星・僵蚕・地竜各10g、甘草10g、羚麝止痙散3回分を煎じ濃汁100mlを取り、小量を何回も頻繁に投与し、熱が退いたら余った薬は棄却する。
2月2日二回目の診察:日夜7回薬を服用させ、5回目の服用で膠粘状の痰涎を下し、3回の下痢とともに熱は退きひきつけは大いに減って、病を患って以来1日のひきつけが最少の7回だった。紫紋は風関にまで退いて山根の青紫もなくなり、精神の委縮は極めて短時間となり、舌紅少苔だが煙突の出口の閉合不良である。熱が陰分を傷つけたので、大定風珠3剤を与える:
亀鼈甲・牡蠣12g、生地黄・白芍・麦門冬各15g、天竺黄10g、五味子・炙甘草各6g、羚麝止痙散を3回に分けて服用、卵殻粉3g(冲)、竹瀝15ml(混入)、卵黄2枚(薬汁煎沸中に混入)。
4月3日三回目の診察:2ヶ月間で上方を加減して21剤服用させると、諸症はどれも軽減し体質は改善され、両目には意識が戻り目が合うと微笑み且つ言葉も話し始めた。数日前に風熱を外感し、熱が退いた後に痰鳴とひきつけがまた起こり、精神も痴迷に戻ってしまった。思えば《傷寒類方集参》に:“柴胡加竜骨牡蠣湯は和解鎮固で攻補兼施、良く肝胆の驚痰を下す……”と云って実に本病の症が実を結んだのは、正に重い借りに堪えているようなもので、潜鎮墜痰の品を加え開く:
柴胡・桂枝・生半夏・紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)・酒黄芩・酒大黄各5g、鉛丹3g(絹に包む)、生竜骨牡蠣・珍珠母・生鉄落各10g、炙甘草3g、鮮生姜3片、大棗4枚、竹瀝10ml(混入)、羚麝止痙散2g(分冲)。
5月14日四回目の診察:上方を隔日に1剤ずつ全部で20剤服用させた。毎回の服用毎に白色膿状の膠粘痰涎を有する便を下し、17剤に至って漸く黄色い軟便となった。精神は大変清らかになり食欲も大幅に増えた。ひと月の内に毎食の急性胃カタル(その母は既に母乳は出ない)は、その発作が一二回になった。体質は明らかに改善し、一人の黒く痩せた小さな女の子から、一人の小さな白いふっくらした女の子に変わった。腎は先天の本であり脳を主どり髄を生じると思うので、すなわち血肉有情の品を以って培元固本、腎督を補い脳髄を益し、化痰で鎮驚通窮し、散剤で緩やかに本治を計る。
全河車・黄毛茸尖・卵殻粉各30g、羚羊角・全虫尾・大蜈蚣・熊胆各10g、麝香5g、朱砂5g。
粉にして一日3回、1回1gを服用。
1983年2月5日に患児が急性胃腸カタルになって診察。聞けば上記の薬で半年以上にわたり治療し諸症は殆ど癒えた。今年10歳、すでに1年級に上がり、ここ10年間で急性胃腸カタルの発熱によってひきつけの発作が3~5回だった。その後結婚し、子供を育て一切が正常、ただ知力がいささか相違するだけである。
四、小児暴発型脳炎
霊石車駅温礼鎖の子、13歳、1977年3月14日、登校途中突然悪寒発熱、頭痛嘔吐目眩して、校長に抱えられて家に戻った。ペニシリン注射・アンナイジンでもコントロールできず余に診療をまかされた。体温39.7℃、頚項は硬直し度々ひきつけを起こし、体が弓のように反り返り、噴射状に嘔吐し体は焼き炭のようで、四肢は厥冷、胸背部に瘀点や瘀斑があり、心は虚ろでうわ言を話し、小便赤く便秘、とても口が乾き冷たいものを呑む、脈滑数、歯を喰いしばっているため舌を診察できない。血液検査によると白血球2万、中性球90、脳髄液の検査の意見を家長は拒絶した。脳膜刺激性は陽性。症状を見ると暴発型脳炎の特性に符合し、同班同学ですでに何人かこの病気で入院し、石灰工場の子供は救治が及ばず死亡した。そこで急ぎ山稜針を以って十宣・十二井・十足趾・百会・大椎に重刺して出血させ、両手の中の縫穴に刺して粘液・黒血を流した。毫針を雀啄朮瀉涌泉に、点刺を素髎・人中・合谷に。針を施した後その患児は全身から汗が出て、嘔吐は止み蘇生した。再び検温すると体温はすでに1℃下がっていた。弁証は蘊毒熾盛に属し、気血両燔、熱深厥深、動血が営に入り、陽明に熱が結んで、肝風が引き動かされ、邪が心包に閉じ込められて重症となった。清蘊解毒で清気を涼血し、邪熱を蕩滌し熄風を開窮して治となす:
1.羚麝止痙散15g、玉枢丹2瓶、を5等分にして2時間に1回。
2.生石膏200g、牡丹皮・紫草・蚤休各15g、二花(金銀花)60g、連翹・生地黄・大青叶・芦根各30g、大黄・甘草各15g、青黛10g(包んで煎じる)、芒硝15g(冲化)に冷推500mlを加え1時間浸けこんでから、強火で10分間煮沸し、煮汁1,000mlを取り3時間毎に1回200mlを昼夜連続して服用させる。
3月15日二回目の診察:24時間以内に1剤を全て服用し終わったが、3回目の服用の後悪臭を伴う便を2回下してから、熱は退いてひきつけは止まり、頭痛・嘔吐もまた止み危機を脱した。今日の体温は38℃で呼吸は短く弱く、汗があり話し声は低く、舌紅脈数。気津が消耗し、正気の欲脱が見られる。原方の生石膏を半減させ玉枢丹・硝黄・羚麝止痙散を除き、西洋参15g、麦問冬20g、五味子10gを加えて2剤、1剤を六つに分け3時間毎に1回、昼夜連続して服用させる。1剤服用すると熱は下がり、空腹を覚え食べ物を欲しがり、2剤の服用を終え完全に健康へと戻った。流行性の脳発病は急で病勢は危険、余の所の病例で、大変少ないが衛気営血が進展変化する場合のように、発病して直ぐに見ると気血が両燔し陽明は熱結、動風驚厥し邪が心包に内陥する、故に早く諦めずに下すこと。大黄は熱毒を蕩滌、いわゆる釜底抽薪で、毒血症・脳の病変に対し迅速に脳圧を低下させ脳部の瘀血水腫を軽減させる効果がある。
続く
Comments