李可老中医 危急重症難病治療経験集 その3
2.肺心病による心臓衰弱と危機的脳症の合併症と急性腎機能衰弱
霊石薬剤会社 王桂梅の母、62歳。1979年2月4日、県医院の診断は“肺心病での心蔵衰弱と危機的脳症の併発ならびに急性腎機能衰弱”で病は危機的で死を覚悟で退院した。診察すると患者は深い混迷状態で、鋸を引くような痰の音、頚脈は甚だしく動き、腹は太鼓の様に腫れ、臍は出っ張り胸は平ら、下肢は泥の様に爛れ浮腫んでいる。唇・舌・指の甲は青紫色で舌苔は厚膩、六脈は散乱している。下肢の三部の脈を探れば沈実で有力で、聞けば痰の喘息を患って31年、この次にもし風邪をひいたら喘息発作の引き金となる。入院7日、終始無汗ですでに2日無尿である。診ればその唇と指は青紫色で心臓衰弱は今にも露と消えそうなほど。寒飲が中に久伏しているところにまた外寒を感じ、陰寒が内外に充満し神明を蔽阻した。破格救心湯通常量と小青竜湯を合方し、裏寒を温め表閉を開き、滌痰醒神で治となす:
附子30g、麻黄・桂枝・赤芍・乾姜・細辛・五味子・菖蒲・欝金・葶歴子(包)・炙甘草各10g、生半夏・茯苓各30g、麝香0.3g(冲)、竹瀝60g(混入)、生姜汁小盃1杯(混入)。
鮮生姜10大片、大棗10枚を一剤とする。
2月5日二回目診察:服用後発汗し一回の大便に従い蘇生した。小便は非常に多く一昼夜で約3L以上。腹部及び下肢の腫脹はすでに7~8割消え、足の甲にはしわが現れ臍の出っ張りもなくなった。原方をさらに一剤服用させる。数日後街角で会った時には全快していた。
考察:破格救心湯は回陽固脱・起死回生の処方である。臨床応用は機会があれば躊躇せずに直ぐに投薬する。本病例の“四逆”の証が見られなくても、陰水が氾濫して唇や手の甲が青紫など亡陽の兆しが露ほどもあれば、一回投用してみれば盃を元に戻すように救うことができる。もし“諸症すべて具わり危機的症状で覆われている”となっても、また医者が苦労して惨憺たる状態だとしても、患者の生死は測りえないのだ。また本方は重症心臓衰弱水腫および腎機能衰弱無尿を治療するが、一日の間に十中八九思いもかけないことができる。事後研究すると、本方の他に温陽消陰し膀胱気化を蒸動するものは茯苓の利水以外には麻黄一味が役に立つ。肺は水の上源であり水道の通調をつかさどり膀胱に下輸する。いま寒邪が肺を塞ぎ水道を通じなくすると集まった水は浮腫となる。麻黄の発汗解表を用い肺気を開き下げると、その肺気が開いたことにより水道は通り水腫はたちどころに消退する。この後数多くの慢性腎炎水腫及び頑固性心蔵衰弱水腫の病例と遭遇し、その原因を求めて根掘り葉掘り追求したが、どれも外感寒邪の久伏の病歴があり、対症処方内に麻黄一味加え壺の蓋を持ち上げれば閉ざされた肺は開宣し、尿量は速やかに増加して癒える。
3.風心病による危機的心臓衰弱
霊石県土産会社書記吴雲凱、55歳。風湿性心臓病を患って12年、頑固性心臓衰弱5年、心機能Ⅲ級。最近5年のほとんどの時間を病院で過ごしている。1977年6月23日、患者は城関医院に入院治療ひと月余り。病状がひどくなり急性心臓衰弱に心室細動を併発、脈拍212となり、ついに危機通知書が出され家族が中医の診察を要求した。
9時30分、診察すると患者は意識なく顔色は灰色、頭部からは脂汗が滴り意識混迷、言語不明で息はたえだえ、小便垂れ流し。唇・舌・指は青紫色し、呼気は冷え全身氷の様な冷たさで僅かに胸部に温もりがあるだけ、腹部は鼓張し下肢は泥のようにぶよぶよ、酸素吸入をしてはいるが血圧は測定不能、寸口部の脈は微細。五臓が絶え元陽も今にも絶えそうな危険が迫っていることはその脈からも判断できる。しかし幸いにして下の三部太渓の根脈が微弱と判別でき、これが生き延びるきっかけとなる細い糸となった。早速破格救心湯の大容量を投薬、この中には附子を200g用い、さらに沈香粉3g(沖)、油桂3g(沖)、雲苓・沢瀉各30gを加え、納気帰腎をもって利水消腫する。強火で煎じ、でき上がったそばから服用させる。おおよそ10時に服薬を開始、15分後陽が回復し息の詰まりがとれ、汗は収まり喘ぎも楽になる。11時30分空腹を感じるほどとなり、脈拍も100となって危機を脱した。再び原方から3剤とり、3時間毎に一回昼夜連続して服用させる。午後4時浮腫は消退し脈拍も82となり、杖をついて歩けるようになった。合計約31時間で附子0.75kg、山茱萸肉0.5kg弱を服用、以前から瀕死の状態であったが最後には治癒した。
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