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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その31

李老中医 危急重症難病治療経験


その31



 十一、重症丁奚疳  


  


  公安局教導員の李風田、姪7歳。1975年4月5日初診:出生後の臍断が綺麗にいかず爛臍となってなかなか治らなかった。その上湿熱を清熱するために解毒の剤を数十剤も過用したために、遂には食欲不振や腹脹、腹には太い青筋、便溏、四肢は痩せ細り頭大きく首筋は細い、顔色は萎黄で髪の毛は枯れて乾き、皮膚は乾燥して縮み丸い顔も皺になり、まるで小さい老人の頭の様である。四肢は温かくなく臍は出っ張り、中心は爛れて臭いのする黄水が流れ、午後には潮熱が出て唇や指が蒼白となり、脈数無力で舌淡白艶なく重症の疳積となってしまった。この症は苦寒の過用で中を傷つけ、中気下陥となって湿熱が化せなくなったことによる。治法は下病上取が宜しく、補中益気湯の内服と化腐生肌斂瘡の品を外用する:


  1.生黄耆60g、当帰・蒼朮・白朮・炙甘草各10g、紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)・柴胡・升麻・姜炭各6g、生薏以仁30g、鮮生姜3片、大棗6枚を5剤。


  2.五花竜骨・枯礬・無名異各10gを粉にして、毎日塩胡椒の水で洗浄し乾燥させたものを混ぜ、ガーゼに包み縛る。


  


  4月15日二回目の診察:薬を服用後、7年の頑固な疾病は全て癒え髪の毛ほどの傷跡もなくなった。培補脾腎の方剤を与える:全紫河車1個、紅参・三七・内金・炒麦芽・炒穀芽各30g、合わせて細末にして1.5g、1日2回服用。


  1983年末に訪れるとその子は既に13歳の4年級になっていて、体質は増強し健康な子供と差はなくなっていた。



  注釈:“丁奚疳”は小児の疳積を指し、骨が痩せて柴の様になってその形が“丁”に似た証から由来する。脾腎の虚損により気血が衰退したところから顔色が萎黄或いは蒼白が現れ、低温潮熱や四肢の細小、首が長く骨が露出し、臀部の肉は削げ落ち、腹は張り臍も突き出てそして食が多いと吐き、吐き下してきりがない等の症状で重症の脾疳である。本例の場合は先天の腎気を毀損するまで及び、病状は更に重症である。“疳”は小児科の四大症の一つで、処置を誤れば軽くても小児の成長発育に影響がありちびになるし、重ければ生命に危険が及ぶ。疳を治すのは結核を治すようなもので、熱があっても清熱してはいけない、蒸があっても退蒸してはいけない、脾胃を健やかに保つことで、病を心配するだけでは治らない。



  十二、小児遺尿(二例)



  張××、男、11歳。遺尿5年以上、いろいろな科を回り湯剤丸剤散剤など数え切れないほどの薬剤を服用したが無効であった。顔色萎黄で艶なく食少のうえ精神倦怠、学校から帰ると直ぐに大きないびきをかいて熟睡しめったに遊ばない。脈弱舌淡。その母が言うには:小便に似た臭いがして風を引きやすい。一面では気虚脾弱に見える証の中で、出てきた一条“尿臭”は肝胆湿熱下注のようだ。ただ熱なく痛なく尿色も清でしかも量が多い。《内経》に“中気不足は則ち小便が変と為す”とあり、大体この種の症状を指している。そこで補中益気湯で治療を進める:


  生黄耆30g、当帰・白朮各10g、紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)・柴胡・升麻各5g、陳皮0.5g、炙甘草5g、上肉桂3g、鮮生姜3片、大棗4枚。


  上方を連続して7剤服用して癒える。肉桂の意味は膀胱気化の蒸動にあり、縮泉丸や桑螵蛸散を加えないのは、既にいろいろな科で治療を経ているので、当然これらの処方は無用である。補中益気湯は気虚失運の尿閉を治すだけでなく、また気虚不摂の遺尿も治すことができる。経文の中の“変”の字は、正・反両方面の意義を包括していた。


  


某女、19歳、3歳で麻疹を患い高熱が5日も退かず、麻疹の後すぐに遺尿を患い、初めは病気とは思わなかったが小学4年になってもなお毎夜寝床を濡らした。すでに長きにわたり恥ずかしくて口に出せず、病気を隠すあまり医者を避けていて、遂には頑固な疾病になってしまった。今はもう高校3年になってまさに大学を考えようとしたときなので、面の皮を厚くして余に診察を求めた。聞けば幼い時から体が弱くいつも風邪をひいていた。月経の来るのが遅く16歳で初潮、月経前には少腹が絞痛し臍の周りが手のひら大に冷たくなっていた。顔色は蒼白で気が小さく汗かき、四肢は暖まらないし口は渇かず尿は多い、舌淡脈細。証は先天不足に属し、そのうえ病後の失調から腎陽が虚衰して冲任虚寒となり、冷えが膀胱関元に積もってしまった。腎関が不固のため膀胱本来の働きができなくなってしまった。陽虚の病は子の刻に墨を流したように広がり、陽が統束できなくなって遺尿となった。そこで人参四逆合当帰四逆加呉茱茰生姜湯を以って本治となす:


1.附子30g、乾姜20g、炙甘草30g、紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)15g、当帰・通草各30g、呉茱茰15g、桂枝15g、白芍30g、細辛15g、炮甲珠10g、鮮生姜30g、大棗12枚を10剤。


水1,500mlを加え弱火で煮て500mlを取り、人参汁を加え朝晩に分けて服用。


2.呉茱茰・油桂各30gを粉末にして酢を加えて炒め、毎晩臍の中に敷き詰めて貼り、その中に麝香の小さな米粒大1粒を入れ、翌朝には取り除くように、10日間連用する。


上法の内服と外用で3日間は変わらなかった。4日目になると全身発熱を自覚し、臍の内に虫が這うように感じた。その母が触ってみると臍の周りが温かくなっていた。精神は壮健となり食欲も大幅に増えた。その晩は1時頃尿意を催して目が覚めたが遺尿はせず、生まれて初めてのことだった。10日後その症は根本から取り除かれた。次の年大学に入学し夏冬の帰省には必ず我が家に来て感激の情を表した。




                               続く

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