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  • 執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その37

李老中医 危急重症難病治療経験


その37



四、結核性包塊型腹膜炎



  王秀清、女、30歳、郵便局職工。1983年8月9日、その年15歳、嘔吐腹痛でその母が患者腹を揉んだところ下腹部に明らかな隆起が発現し、中には硬質の塊があって、省一院での超音波検査ではT・B性包塊型腹膜炎と実証された。包塊は恥骨連合上4cmの所に17cm×16㎝の大きさである。その母が云うところによると、患者は生冷の物を好んで食べ、喉が乾けば冷たい水を呑み、未だに月経が始まっていない。顔色は萎黄で脈弦渋、舌淡で歯痕がある。女子は二七で天癸に至るが、この患者は発育が良好ですでに月経開始年齢に達している。生冷の過食によって寒痰が胞宮に凝集し有形の癥結を形成した。温経化痰で逐瘀通絡し、月経が通じるのを待てば癥結は自ら消える。


  生黄耆45g、当帰・丹参各30g、赤芍15g、川芎・桂枝各10g、茯苓30g、桃仁・紅花・牡丹皮・炮姜・没薬・白芥子(炒って研)・三棱・我朮・木香・甘草各10g、失笑散20g(包)、炒小茴香15gを7剤。


  8月16日二回目の診察:腫塊は少しずつ軟らかくなったがまだ縮小してはいない。原方に大黄6g、醋鼈甲30g(打・先煎)、土元10gを5剤。


  8月22日、腫塊は1/3ほど縮小したが同処方に党参30gを加え再び5剤服用させる。


  8月26日三回目の診察:また1/2まで縮小したがしばしば攻破を用いたため、気分は虚となり臍下は安定せず食欲不振、精神疲労し折れんばかりの腰痛、脈細無力。化瘀を以って佐とし益気扶元する:


  生黄耆30g、当帰20g、紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)・霊脂・桂枝・桃仁・牡丹皮・赤芍・川芎・土元・柴胡・炙甘草各15g、炒小茴香15g、腎四味120g、茯苓・炒麦芽各30g、鮮生姜5片、大棗6枚、胡桃4枚(打)。


隔日1剤を10剤。


  10月22日、その母が患者と共に家に来て喜んで報告したところによると、薬を全部服用し終わり6日後に初潮が来潮し塊は全て消えた。



五、重症結核性腹膜炎


  


  王桂蘭、女、35歳、汾局電工場交換員。1967年6月28日、荷物運搬用の小車に乗せられて来院。汾局医院の診断は結核性泛発性腹膜炎で、一月余り入院しストレプトマイシン治療をワンクール終えたが効果なく、段々と起き上がることもできなくなってしまった。閉経して2カ月、顔色は蒼白で艶がなく眼の縁は落ち込んで潮熱盗汗があり、呼吸が短く息が不足し胃酸がこみ上げ胃の調子が悪く、一日に僅か水餃子を二三個しか食べられず、ストレプトマイシン中毒性の難聴になってしまった。腹満は板の様に硬く疼痛し触られることを嫌った。脈細・渋、舌胖淡で歯痕あり。証は寒凝下焦、血瘀閉経に属す。少腹逐瘀湯合海藻甘草湯を以って温経散寒、軟堅散結、扶正化瘀し治とする。


  当帰30g、桂枝・川芎・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・失笑散(包)・姜炭・没薬・土元各10g、炒小茴香・赤芍・漂海藻・生甘草各15g、鮮生姜5片、大棗6枚、全虫12只、蜈蚣1条削って粉にして冲服、7剤。


  7月16日二回目の診察:腹の脹痛は大変少なくなり時に放屁が出る。食欲は増し毎日300gほど食べられるようになり、潮熱盗汗はすでに止まった。下腹部は臍の周りの手の平大の塊以外は軟らかくなった。抗結核要薬の猫爪草50gを加え10剤。


  7月17日三回目の診察:患者は歩いて診察を受けにきて、顔色は紅潤でしかも一日に600gも食べることができるようになった。臍の周囲もすでに軟らかくなったが、まだ疼痛拒按はある。少腹と乳房に閉脹感を覚え陰道には分泌物が出現したが、これは月経が通じる前兆である。成行きを見てうまく導くように原方から海藻・甘草を去り、坤草(益母草)・丹参各30g、柴胡・澤蘭叶・桃仁・紅花各10gを加え10剤。


  8月1日四回目の診察:月経があり紫黒塊屑状の瘀血を甚だ多く下し、脹れていた腹はすでに以前の様に柔らかくなった。月経後に精神疲労、気力なく腰が折れるように痛んだ。長患いは腎を傷つけ気血ともに虚となるので、補中益気湯加腎四味各30gを5剤服用後、健康を回復しまた一人の女性が生き返った。



六、多嚢卵巣による不妊



  霊石農行職工郭霞、女、34歳、2000年10月4日初診:結婚後10年間不妊で色々な医者を求めて多くの治療をしたが無効であった。1996年春に山医二院婦人科で腹腔鏡検査を受け“多嚢卵巣”と診断され、また輸卵管造影で“左輸卵管梗塞”が現れ、現代の各種療法はどれも無効となった。どの頑症痼疾にも必ず特別の原因がある。そこで詳しく話を聞くと、その母が患者7ヵ月半の時につまずき倒れ胎動して早産となり、幸い一命を取りとめたが虚弱で多くの病に罹り、これは先天の不足で生殖系統の発育不足が主因である。腎は生胎の本であり腎虚ならば生殖できない、現代医院が生育不能と断定したのも道理である。また加えて保養もせずに生冷のものを好んで食べ、月経期にも関わらず冷水にて足を洗い、そのため寒が任脈に侵入し痛経を患うこと18年を経過した。平素から腰が折れる様に痛み、臍中が硬い板の様に冷痛し、少腹の両側が固定刺痛して白帯多く清稀である。月経は毎月遅れその色は黒豆汁の如くで、塊屑や膠漆状の汚物を含み、顔には蝶形の褐色斑があり脈沈渋・舌辺尖には瘀点や瘀斑で満ちている。上の症状に基づき、先天の腎気不足や冲任虚寒で、湿痰死血が胞宮に凝結して癥瘕となった。方は以下の如く:



  1.培元固本散:古代の河車大造丸をまねて、先天を再造する効果がある。血肉有情の品で先天の腎気を補い以って本を治し、虫類が入絡捜剔し温経化瘀滌痰を以って標を治す:


  紫河車・坎気(臍帯)・茸片各50g、蛤蚧5対、海馬30g、蛇床子・大三七各100g、紅参・霊脂・琥珀・土元・水蛭・炮甲珠・全虫・蜈蚣・白芷各30g。


合わせて削り細粉にして一日に3g、熱い黄酒にて服用する。


  2.当帰四逆加呉茱茰生姜湯の奇経直入を以って、開冰凍解し沈寒痼冷を破り、桂枝茯苓丸・少腹逐瘀湯を合わせて任脈を温めながら通じ、緩やかに癥瘕積聚を消す:


  当帰・桂枝・赤芍・白芍各45g、丹参・坤草・劉寄奴・通草各30g、茯苓45g桃仁泥・牡丹皮・炒小茴香・川芎各15g、失笑散(包)20g、呉茱茰・細辛・炙甘草各20g、企辺桂(後下)・没薬・白芥子(炒研)各10g、鮮生姜45g、大棗25枚。


水1500mlを加え、弱火で600mlを煮取り、一日に3回に分けて服用、10剤。


別に炮甲珠60g、麝香2gを削って粉にして20包に分け、中薬と一緒に朝晩1包ずつ熱い黄酒にて冲服し、この対薬で至れり尽くせりの性の穿透攻破を以って、病巣を真っすぐ攻めれば嚢腫は消え瘀積はなくなる。


  10月25日二回目の診察:上薬を7剤服用すると腹内が雷の様な音がして、頻繁に放屁があり腹脹は消え痛みも止んだ。月経は滞りなくめぐり下る汚濁は黒血塊が甚だ多くなって、それとともに月経痛は癒え少腹も柔らかくなって、白帯は消失し食欲は増大した。ただ腰痛が酷く僅かに気怯を覚える。月経後は当に益気補虚と温養肝腎をせねばならない。生黄耆60g、当帰30g、紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・霊脂各10g、制腎四味・川断・熟地・蛇床子・山茱茰肉・茯苓・老鶴草・決明子各30g、蒼朮・白朮各15~30gを毎月の月経後に15剤服用。


  2001年元旦三回目の診察:


上法を大きな加減をせずに2カ月連続服用することで、顔面の褐色斑と舌上の瘀斑はきれいになくなり少腹も温かくなった。今日月経が予定日を過ぎて16日になってもなく、左三部脈滑大で僅かに吐き気と酸っぱいものを食べたがった。尿検査を行うと妊娠反応が陽性で、そのまま順調に女の子を出産した。



  注釈:月経後に半月ほど服用した方中に老鶴草・決明子各30gがあるが、これは先輩の叶橘泉先生が不妊症を治療した経験方である。病理機序は不明なれども用いてみると多くの奇効がある。老鶴草は筋の強ばりを除き骨を丈夫にし、風寒湿痺を治す、また《雲南本草》に“婦人が月経中に寒邪を感受し、月経不調や腹脹腰痛や受胎不能を治す”と記載されている。決明子は明目の要薬であり肝腎に有益で、冲脈は血海を為し、任脈は胞胎を主どるとされ、この冲・任は肝腎に隷属するので、これらは皆受胎と関係がある。かつ用法は月経後に半月の連続服用する、即ち重点は補虚にあり以って排卵を促すのであって、意図は通利にあるのではない。



                                           続く

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