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  • 執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その38

李老中医 危急重症難病治療経験


その38



七、重症妊娠悪阻


(一)


  耿巧珍、27歳、核桃洼教師。1983年11月9日初診:妊娠4カ月で緊急入院となった病人で、激しい咳喘と嘔吐が日夜止まらず50日目で内科に入院して既に10日間になる。すでに脱水防止の補液を与えられてはいるが、依然として病状は重症でまだ危機を脱していない。内科での確定診断は①肺結核②妊娠悪阻脱水。


  直ぐに診察すると、患者はしばしば嘔気し食物が入ると直ぐに吐き、咳とともに白い痰や涎を吐く。四肢は痩せて細く顔色は萎黄で艶なく、脈は微・細・急、160拍/分。煩渇するが水を入れても吐く。両目は虚ろで入院室から2階の診察室まで喘ぎ言葉を発することができず、舌は紫暗。虚損が長期にわたり妊娠期の鬱怒で、肺・胃・肝の三経気逆となり升ばかりで降がなく、恐れることは暴脱の心配がある。救脱を先ず為して温肝降逆を以って佐とする:


  紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・山茱茰肉・生半夏・代赭石粉・炙枇杷叶各30g、旋覆花(包)・呉茱茰(洗)・炙甘草各15g、鮮生姜30g、姜汁20ml、大棗10枚を1剤。


濃く煎じて少量ずつ何回も頻繁に服用させる。


  11月10日二回目の診察:咳・吐き気は8~9割減り食べることができるようになった。煩渇舌紅、脈微・細・急、144拍/分。喘・汗はまだ止まってはいないので、まだ危険区域から離れてはいない、救脱が必要である:


  紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・山茱茰肉・生半夏・芦根・代赭石粉各30g、麦門冬15g、五味子10g、炙甘草15g、鮮生姜30g、姜汁10ml、2剤。


  11月13日三回目の診察:咳・喘・吐みな癒えた。しかし体に力が入らず精神疲労があり、脈細数で力あり、120拍/分。腰痛し少腹の墜脹がある。腎は受胎を主どり永らく損なわれたものがまだ戻ってはいない、堕胎の心配があるので益気固腎し救脱する:


  代赭石粉・生黄耆・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)各30g、腎四味各30g、姜汁10ml(混入)、大棗10枚、胡桃4枚(打)。


  11月17日四回目の診察:脈急144拍/分。腰痛・腹脹が治ったといっても気血は極めて虚で、便溏や脾気下陥があり救脱が必要である:


  生山薬60g、山茱茰肉・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・生牡蠣粉各30g、白芍・炙甘草各15g、2剤。


  11月21日五回目の診察:脈細数120拍/分。ようやく食欲が出てきて自分自身の感覚も良好となった。しかしまだ十分に元の様に回復していないので、軽視することはできない。


  生黄耆・山茱茰肉・生牡蠣粉・腎四味各30g、紅参15g(別に弱火でゆっくり煮る)、白芍15g、生山薬60g、炙甘草15g。


  上方を連続3剤服用させると脈98拍/分。11月24日に退院し、我が家に帰り養生する。張錫純氏の来复湯は確かに脱神の危救を援ける剤である。



(二)


  煤運会社総経理師趙丁輝の弟の嫁、28歳。1965年7月25日救診。妊娠2カ月にして激しい嘔吐が35日も続き、夫に付き添われ養生のため帰郷した。天津から霊石までの旅は疲労を伴い、脱水状態となり眼窩は落ち窪み、気喘と多汗で水さえも受け付けず、脈細で細い糸状。生半夏・茯苓・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・鮮生姜各30g、炙甘草15g、姜汁10mlを混入し濃く煎じ、小量を何回も服用させると1剤で癒えた。



(三)


  樹脂工場女工孫月珍、26歳。1980年3月18日、妊娠45日で強烈な吐き気で水さえ飲めず、床に伏して起きられず既に半月、痩せて呼吸は短く少腹墜脹し、折れんばかりの腰痛と休まず続く左肋骨刺痛、脈滑、降逆和胃、疎肝理気、補腎固胎と定める:


  代赭石末・生半夏・生山薬・酒帰芍・桑寄生各30g、柴胡・枳殻・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・蘇梗・姜竹茹・旋覆花(包)・陳皮・炙甘草各10g、川断・菟絲子各15g、鮮生姜30g、姜汁20mlを濃く煎じ人参汁・姜汁を混入しゆっくり飲ませ2剤にて癒える。



(四)


  平遥推光工場女工王改英、26歳。1979年3月18日妊娠40日で強烈な吐き気が一月余り、お粥さえ食べられないので治療を求める。顔色萎黄で痩せて精神疲労し、いわれなく怖がり常に誰か後ろから付いてくるように感じている。加味温胆湯を与える:


  野党参・代赭石末・生半夏・朱茯神各30g、旋覆花(包)・枳実・竹如・拮紅・胆南星・炙甘草各10g、鮮生姜30g、姜汁お猪口2杯を混入し3剤服させると全て癒えた。



(五)


  侯秀蓮、妊娠2カ月で嘔吐酸苦は37日、便は乾燥し口苦咽乾目眩し両耳が塞がれているようで聴力減退。顔面は時として暴熱が上冲し脈沈弦数、舌紅中根黄色。和解肝胆・降逆和胃とする:


  柴胡・黄芩・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)各15g、生半夏・代赭石末各30g、旋覆花12g(包)、鮮生姜30g、姜汁お猪口2杯(混入)、大棗10枚を濃く煎じてゆっくり服用させると1剤で癒えた。



  注釈:生半夏は止嘔の要薬であり同量の鮮生姜を加えればその毒を消し、妊娠悪阻患者千例以上を治療した経験から確かに、杯ほどで癒えてしまうほどの効き目がある。40数年間で生半夏を3t以上用いたが一例の中毒もない。半夏は妊娠禁忌薬でありまた妊娠悪阻の特効薬でもあり“死なないのには訳があり、だから死なないのだ”どうして喉に詰まるからと云って食べるのを止めることができようか!


                                            続く

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