李可老中医 危急重症難病治療経験集 その4
4.ブルシー桿菌病による急性心臓衰弱で臨終の危機
張建亮、男、28歳、静昇鎮狐子溝村農民、1999年4月13日急診。患者は牧羊に従事して3年あまり、ブルシー桿菌に伝染して1年半、治療に失敗し長引いてしまい、心・肝・腎に実質的に損害を受けている。4月3日突発性心臓衰弱で省人民医院に緊急入院(入院番号230511)、最終診断は“心臓肥大、心室性細動、心機能Ⅳ級、心臓衰弱Ⅲ度;胸水貯留;大動脈病変、肝機能障害、低蛋白血症”すでに五日間全力で救おうとしたが無効、4月8日朝8時危篤となり、専門家は、いつでも生命の危険があり死後の準備や最後の救急の余分な仕事を招くことを認めている。
診察をすると患者は起座呼吸し頻繁に激しくせき込み、喉はゴロゴロとした痰の音が聞こえて涎を嘔吐し、顔色は暗い灰色で精神は萎えて、寝ているのか起きているのか、蚊の鳴くようなか細い声で、唇・指は暗紫色で胸痛は背を貫くほど;全身は陥没性の浮腫、臍は出っ張り胸は平ら、睾丸も水腫だが尿は少なくて一昼夜で150ml;食べ物を嫌がり食物が入ると腹が張って死にたくなるほどで一日僅かの薄めた粥を少しずつ呑ませている;寒さを嫌い無汗、また涙目でもない;脈は速く脈拍114で時々乱れる;舌は紫暗、全体に紫黒の瘀斑が広がっている。病人は息も絶え絶えで物を云うこともできず、本病がどうしてなったのか、三陰寒凝なのか気化氷結の局面なのか、すでに察知する方法がない。脈証から推理すると必ず初病は表失から起こり、その外邪が五臓に深く侵入し、正気の虚は邪を外出せせることができず血分に潜伏してしまい、暫らくすると陰衰亡陽となる。脈は取り散らかって時々心拍停止の危険がある、これらは古代医典に載っている七怪脈の一つで必死の症候である。患者が危篤であるという通知が11日には届いているがまだ死んではいない、すなわち正気がまだ残っている、また正に壮年であり一縷の命の綱がある。次回感冒によって突発性の心臓衰弱になった時、この“感冒”の二文字が例え生死を分ける重要な鍵だといっても、すべての病はみな表より裏へ入るのであって、“表”は邪の入口であるしまた邪の出口でもある。また三焦の気化が氷結し集まった水が浮腫の原因となっている。少陰と太陽の同病には麻黄附子細辛湯があり、裏寒を温め閉じた表を開き正しく援助することができる。閉じた表が開き開いた門から盗人を追い出すように、潜んでいる邪を透出する丁度いい転機である。そこで大量の破格救心湯を使用するのだが、それには閉じた表を開く麻黄と細辛を加え、下焦気化や利水など蒸動に油桂と五苓を加え、さらに開胸滌痰破瘀の栝楼薤白白酒湯と丹参飲、開竅及び呼吸衰弱を救う麝香を合わせる。
附子200g、乾姜・炙甘草各60g、高麗参30g(別にとろ火でゆっくり煮る)、五霊脂30g、無核山茱萸肉120g、生竜骨牡蛎・活磁石・鍛紫石英・瓜萎各30g、薤白15g、白酒100g、丹参30g、檀降香・砂仁・企辺桂各10g、桂枝・白朮各30g、茯苓45g、猪苓・沢瀉各15g、桃仁・杏仁各15g、麻黄・細辛各10g、鮮生姜30g、大棗12枚、麝香1g(分冲)。
2500mlの冷水を加えとろ火で煮て450mlを取り出し、これに人参汁を一緒にしたものを3回に分けて、3時間ごとに一回ずつ昼夜分かたず3剤を連服させる。
上記薬剤を二日間で9回を服用させたが、一回目を服用した後に頭部発汗し喘咳も直ぐに減った;二回目服用後発汗が全身にいきわたり、小便量が大変多くなり一昼夜で3000ml以上、浮腫は7~8割なくなり、翌日には麺類を一杯食べ、起き上がってオンドル伝いに散歩をし、顔色も暗灰色から紅潤へ転じ、脈は沈弱、脈拍82、不整脈は消え危機は脱した。昔から汗法は小技と見られていていたが、病が息たえだえになったら汗法は争いのないところである。いつも敗局を転換させ人の命を救うには中の病機を断ち切って汗法を施すことがこの際には適当であるということを知らねばならない。汗法の妙は、結局起死回生の効果があるということだ。
5.中医学の真心痛の範疇に属する冠心病の狭心痛発作或いは急性心筋梗塞は、《内経》に“朝発して夕に死す”の記述がある。病勢は険悪でたちまちの間に危機がせまり、一分一秒を争って針や薬を施さねばならない。まず速効救心丸5粒と蘇合香丸1粒を含ませ、きれいな麝香0.5gと冰片0.05gにお湯を注いで一緒に服用させる。針を素髎・左中冲に重刺し、左内関に挿入捻転を行い約5分、痛みを止め、この貴重な時間を利用して救急のための弁証を施す。
曾治霊石農牧局局長 査富保、60歳、1982年正月六日急診、県医院の心電図による診断では冠心病で一カ月余り経過とのこと。14時心絞痛発作、ニトログリセリンを含ませたら思いもかけず30分ほどで緩解した。おおよそ18時に絞痛が再発、ニトログリセリンを含ませ同時に硝酸薬の吸入を行うも無効。内科会は急性心筋梗塞と診断し、省級の救急病院に急いで搬送するように意見を出した。時間も緊迫していて車を呼ぶのも容易ではないので、私に診察要請があった。患者を見れば顔色青く凄惨、唇・手の甲は紫色、大汗と喘ぎ、四肢厥冷、恐怖に歪んだ表情、脈大で秩序なく乱れ、脈拍120、舌辺や舌尖に瘀斑が線状や薄くついて、舌苔は灰厚膩。急いで上記の針と薬を合わせて与えたところ、約10分後痛みが止まった。患者は高齢で腎陽が以前より虧損しているところへ、春節の疲れと肥甘厚味の食べ過ぎで内臓が弱り、痰濁瘀血が胸郭を阻塞し重症の真心痛を引き起こした。そのうえ亡陽で諸症が厥脱しているように見えるので、破格救心湯変方の大量投与を行う:
附子150g、高麗参(別にとろ火で煮詰めた濃縮液を混入)・五霊脂各15g、瓜萎30g、
薤白(酒泡)15g、丹参45g、檀香・降香・砂仁各10g、山茱萸肉90g、生竜骨牡蛎・活磁石・欝金・桂枝尖・桃仁・霊脂・細辛各15g、莱菔子(生炒各半)各30g、甘草60g、麝香0.5g、三七粉(分冲)、2剤。
上方で参附竜牡・磁石・山萸肉を以って救陽斂陰固脱。一緒に用いる紅参・霊脂は益気化瘀、血凝溶解。栝楼薤白白酒湯合莱菔子は開胸滌痰、消食降胃;丹参飲合欝金・桃仁・三七・麝香は避穢開窮、化瘀通絡、細辛は散寒定痛、桂枝は諸薬が心宮まで達するように引っぱる引経薬。水2000mlを加えとろ火で煮て600mlを取り、3回に分けて服用、2時間に一回昼夜分かたず連続して服用。私が病床で見守っていると、20時10分、一回目を服薬して15分後汗は引き喘ぎが収まり、四肢が温かくなり安らかに寝入った。旧正月7日午前6時までの10時間に約2剤を服用させ、用いた附子は300g、諸症状はほとんど退いて舌上の瘀斑もなくなった。詰まりを除く培元固本散一料で本を治し(三七・琥珀・高麗参・胎盤・蔵紅花・黄毛茸など)、18年後に訪れたが元気。私は上記処方を加減して心絞痛を100数例治療し、心筋梗塞及び後遺症12例、どれも治癒した。その中の一例で心筋下壁梗塞死の患者が、培本固本散1料(約100日)服用後CTスキャン検査したら異常を発見できなかった。これによって培元固本散が活血化瘀・新陳代謝・重要臓器創傷の修復することが説明される。
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