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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その42

李老中医 危急重症難病治療経験


その42



十四、乳腺の嚢性増生症


  婦人科転院してきた患者耿玉蘭、18歳、右乳下方に3か月前からほぼ杏の種の大きさの塊が発現し、遂には少しずつ大きくなって鶏卵大にまでなり、表面は光沢があり境界は綺麗で可動するが粘りつきはない。婦人科の診断は乳腺増症で、中医学治療を請われた。


  1984年1月9日初診:症状は上記の様で、患者の性質は愚直で笑いながら云うようなごまかしはなく、愛が胸に鬱積した怒りを生じた。3か月前ちょうど月経時に乱暴を受け、気を病んで遂には月経が止まってしまった。それからすぐに左乳に隠痛・閉脹を覚え、肋骨はのびやかでなく痰も多く、段々と長い塊になった。かつて逍遥丸を6合服用させたが無効。脈沈滑で有力、苔白膩。証は気滞血瘀と痰気交阻に属す。疎肝化瘀、軟堅散結を与える:


  漂海藻、生甘草各15g、柴胡・白芥子各10g(炒って削る)、夏枯草・牡蠣粉・炒王不留行・丹参・木鱉子各30g、桃仁・紅花・澤蘭叶・六路通各10g、全虫12只と蜈蚣2条は研末にして冲服、鮮生姜5片、大棗6枚を7剤。


  1月21日二回目の診察、上方を服用後乳部に虫が這うような感じがして、第4剤を服用し終わると月経が通じ、甚だ多くの黒い血塊が下った。月経期にまた3剤服用させると、塊は消えて月経血は綺麗になった。


  注釈:上方は余が60年代中期に自創した攻癌奪命湯の加減方で、一切の気滞・血瘀・痰凝による全身各部の腫れ物を治すことができるし、頚部リンパ結核・甲状腺嚢腺瘤・乳腺増生・包塊型腹膜炎・風湿性結節・脂肪瘤(痰核)にもよい。もし陰寒凝聚に属するならば肉桂・細辛を加える:堅積難消ならば生水蛭3g、炮甲珠6gを研末にして冲服する。殆どは7剤で直ぐに消えるが、痼疾は20剤で癒すことができる。方中海藻・甘草は等分にして相反相激し、全虫・蜈蚣・水蛭・炮甲珠を以って入絡捜剔し病所へ直に達する。夏枯草・牡蠣粉・王不留行は散結軟堅し、白芥子は皮裏膜外の痰を去り、木鱉子は甘温微苦で小毒があるが消腫散結作用があり毒を取り除く要薬で、一切の瘍腫・瘡毒・瘰癧・痔瘡を治す。余はこの薬を40数年用いているが中毒になった者を見たことがない。柴胡の肝経入引を以って気鬱を疏解し、もろもろの活血薬は消積を化痰する。諸薬相合すれば気通・血活・痰消し、その症は自然と癒える。



十五、産後燥便による肛裂出血


  燕志華、女、32歳。産後3か月便が乾燥し羊糞球の如くで、排便毎に肛門は裂け出血する。長引かせたので気虚精神倦怠し顔色は萎黄、舌淡唇白、脈細寸微、血色素8g、これらは脾の不統血の現象である。そこで腸風便毒の剤を用いて治療したら反って自汗・心悸・昏眩となった。本は産後の血虚による濡潤喪失に属し、まさに黄土湯を用いて温めねばならぬところ、今誤薬で脾陽を損傷してしまった。古人の経験では、多量の白朮120gを用いれば反って滋液潤便の効果があり、また脾は散精を主どるの意味がある。


  紅参(別に弱火でゆっくり煮る)、炙甘草各10g、生地黄30g、白朮120g、阿膠25g(化入)、附子10g、黄芩炭10g、灶心土120g、3剤で癒える。



十六、乳衄二則


(一)


  劉秀芝、女、34歳、蔬菜会社家族。1983年12月21日初診:両乳房が閉張隠痛して半年以上、徐々に乳頭の内陥と乳房の委縮が現れた。乳房を絞ると粘稠な臭い黄汁と鮮血が溢出した。最近は悪臭の黒血になり、それが毎回一枚の毛布にひたり湿ってしまう。さらに肋骨脹痛や黄臭のある帯下が多く現れた。かつて省医院へ行き検査したが確定診断ができずに、両乳の切除手術を意見されたが、切除を免れた後患っていた。患者は県に帰り余を招き治す相談をした。聞いて判ったことは、病が長期にわたる気の悩みから由来して脈を診ると弦であった。七情による内傷は肝の疏泄を失い、五志の過極は化火・化毒となる。疎肝解鬱、通絡化瘀、化湿解毒にて治となす:


  柴胡15g、当帰・芍薬・茯苓・白朮隔0g、牡丹皮15g、山梔子10g、酒炒竜胆草10g、生薏以仁30g、蒼朮・黄柏・川牛膝・桔絡・炮甲珠・六路通・甘草各10g、漏芦12g、蒲公英90g、連翹・王不留行各30g、貫衆炭5g、三七10gを研末にして冲服、車前子10g(包)。


鮮生姜10片、大棗10枚、10剤。


  1984年2月14日、その夫が子供の夜尿症の診療に来た。云うところによると、上薬を7剤服用して出血は止まり帯下も減った。10剤全部服用し諸症はことごとく除かれ、かつ乳頭の内陥と両乳の委縮もまた漸く形よく膨らみ、1986年の夏に子供が生まれた。


(二)


  劉風雲、女、44歳、水頭市民。1983年6月22日初診:乳衄が2カ月余り、胸に鬱積した怒りが暫くして両肋骨隠痛と右乳に胡桃大の結核を生じ、乳頭から鮮血が溢出した。毎回の月経期は必ず頭眩と泛嘔と黒い多くの塊ある出血。常に一筋の熱流が右脇下の章門穴から乳房の涌来に向かって流れる感覚があり、直ぐに針で刺すような灼痛と、それにつれて同時に鮮血の溢出と爆熱自汗があり、左側もまた同じ感覚がある。毎月月経は2回、月経量が少ない時は乳頭の出血は必ず多い。舌紅無苔口苦、脈沈弦そして数。


脈と証を合参すると、必ず七情内傷であり肝気が久しく鬱して化火となった。肝の経絡は胸脇を纏っていて乳頭は肝に属し乳房は胃に属す。肝気横逆は必ず先に胃を犯す。今朝に動気が現れれば病必ず発作を起こす、これは明らかに木強侮土である。疏泄が多過ぎれば肝は蔵血できない:脾胃が弱過ぎれば血を統摂できない。これがすなわち出血の原因である。治法は肺胃の陰を養い、清金制木して胃の囲いを解きながら肝の体であるその収斂作用を和らげる。


  醋柴胡10g、当帰・白芍・生地黄・石斛・沙参・枸杞子・山茱茰肉・烏梅各30g、麦門冬15g、川楝子10g、三仙炭各12g、牡丹皮・黒山梔子・炙甘草各10g、3剤。


  7月2日二回目の診察:薬服用後血塊は消え出血は止んだが、少腹が妊娠の様に脹れ始めたというので、診てみると鼓の様に突き出ていた。精神倦怠・腰痛で膝が冷え、舌暗紅無苔、脈沈、右寸極めて弱。初診で患者に口苦舌紅が見られたので、多量の養胃湯の甘寒や丹梔の苦寒を用いたために中下焦の陽気を損ない、中気は随って下陥したのでこの病変を起こした、医者の罪なり!情志の火は実火と同じではなく、疏や降に宜しく(気を降ろせば火も降りるなり)、清は宜しくない。且つ前賢の曹炳章氏は“舌紅非常並非火”と謂っている。“非常”の二字は当に十二分に細かく咀嚼せねばならない。凡てに見られる舌色の鮮紅或いは嫩紅は、みな気血虚寒に因って陽が上に浮いたのであり、同類に“面赤如妝(化粧した女の様に赤い顔)”の仮熱に誤って清熱瀉火を用いればすなわち危険である。証に臨んで極めて注意する必要がある。そこで大量の補中益気湯を改めて投与して下陥を升提し、さらに温養腎命の腎四味を加える:


  生黄耆60g、当帰・白朮各20g、紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・霊脂・炙甘草・三仙炭・柴胡・升麻・桔梗各10g、陳皮3g、腎四味120g、鮮生姜10片、大棗10枚、胡桃4枚(打)。


  9月30日偶然街で患者と出会い訊くと、二診の方剤を連続して9剤服用して腰痛や月経不順もすっかり治り3カ月になるという。


  12月13日三回目の診察:上記症状はすでに癒えたが、最近イライラして月経前に両乳熱感や歯茎からの出血・鼻血・目眩・足膝の冷えなどが現れ、脈沈細で不渇、舌嫩紅無苔。倒経血逆上行が現れたといえども、その原因を究めればすなわち腎陰虚極に関係し、龍火不蔵である。引火起原法を与える:


九地90g、塩巴戟天肉・麦門冬・天門冬各30g、雲苓15g、五味子6g、油桂2g(米丸とし呑服)、5剤後諸症みな癒えた。                                                



                                      続く

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