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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その43

李老中医 危急重症難病治療経験


その43



十七 鶏爪風症


  宋巧榮、女、26歳、物資公社幹部、1983年5月7日初診:産後9カ月、春の終わりに急に四肢の痺れを覚え、気力なく精神倦怠や折れんばかりの腰痛し、それは疲れや気候の変わり目に酷くなった。最近一カ月は痺れが早朝に起こり、手足が頻繁に鶏の爪の様に引きつった。内科の診断はCa欠乏性抽搐で、Caを補ったとしてもコントロール不能である。観察すれば顔色は萎黄で艶がなく、脈細舌淡。診断は産後の血虚で肝の栄養が失われたために攣急とし、加味耆桂五物湯を与え益気養血・補腎益精・柔肝緩急とする:


  生黄耆45g、当帰30g、白芍90g、桂枝・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・腎四味各10g、黒木耳30g、 炙甘草10g、鮮生姜10片、大棗10枚、胡桃肉20g、7剤。


  5月15日二回目の診察:薬服用後精神は健旺となり顔色も紅潤、気虚倦怠や腰痛痺れも凡て治ったが、冷やすとまだ抽搐がおこる。詳しく病歴を尋ねると、患者は産後ひと月に満たないうちに野菜や衣類を冷水にて洗ったため、血分深く寒湿が入り正は虚となり邪を外達できなくなった。寒は収引を主どるゆえ経脈は攣縮する。さらに同気相引き内寒が久伏すればまた外感を感じやすくなり、両寒が相迫して症状は激しくなる。前方はかつて多くの鶏爪風を治してきたといっても、ただ本例の主証は変わっていて、故に僅かな効き目しか得られなかった。上薬は補益気血と滋養肝腎の剤であり、直接寒を取り除く効用はなかった。服用後わずかに体質改善になったが病根はほじくり出せず、故に寒に遇えば発症した。その上本例の寒は比較してみると表寒ではなく、つまり厥陰経・少陽経・少陰経に寒邪が深く入り込み、大辛大熱ではなく十二経の猛将でなければその任に堪えることができない。すなわち《金匱》烏頭湯の変方に滋養肝腎及び虫類の熄風の品を加えて治療を進める:


  生黄耆90g、当帰・白芍各45g、川烏頭30g、炙甘草60g、麻黄・桂枝・細辛各15g、腎四味・防風・黒小豆各30g、全蝎12只と蜈蚣4条は削って粉末とし冲服、蜂蜜150g、鮮生姜10大片、大棗10枚、核桃(打)4枚。


水2,500mlを加え弱火で煮て600mlを取り一日分とし3回に分けて服用して3剤。


  5月26日三回目の診察:川烏頭は劇毒があり、霊石境内ではかつて川烏頭を9g服用して3例の中毒が発生し、2例は余が救急に参加し危機を脱したが、1例は死亡した。どれも原因は配伍の不当で、煎煮の方法を指示通りにしなかったことによる。病を免れた患者は心中びくびくしているため、余は患者に対して親切に接し、煎薬の模範を示して病人が服用後安らかに眠りに入るのを待ってから、無事平安を祈りつつそうしてやっと帰途につく。上方を服用後諸症は悉く癒えたが、患者は将来また発症することを心配し又同じようにして6剤を連服した。合計9日で川烏頭270g以上を内服し、その症は根治することができ10年経っても再発していない。



十八、崩漏治療の私見


  (一)ペニシリン過敏後の崩漏


  水峪農婦張翠英、48歳、1984年11月16日初診:三日前ペニシリン過敏、急いで毫針を以って鼻尖素髎穴を刺し雀啄術を行った:内関提挿捻転約20秒、患者は覚醒し危機を脱した。(この方法で過敏症を20数例救治し、最も多くは1分間で危機を脱した)このような酷い急病を受けて驚き、呼吸が詰まって体に力が入らず起き上がることができない。前日ちょうど月経が始まりそれが暴崩となって止まらず、婦人科の救急をもっても治らなかったので余が診察を要請された。見れば患者の顔色は蒼白で気喘と自汗あり、食欲不振と目眩さらには身心動揺がある。月経血の色は鮮紅で血塊はなく、脈沈細弱、舌淡紅。これは驚則気乱と恐則気下によって脾胃の気が虚となり、下陥して摂血ができなくなったので、陥なる者は挙とする:


  生黄耆60g、当帰20g、煅竜骨・煅牡蠣・朱茯神各30g、山茱茰肉60g、姜炭・三仙炭・紅参(別に弱火でゆっくり煮る)・霊脂・炙甘草各10g、柴胡・升麻各6g、鮮生姜5片、大棗6枚、3剤。


  11月9日二回目の診察:血は止まり脈も起き上がって食欲も出てきたが弱い頭痛が止まらない、これは血脱による気陥で血が上栄されないためで、補中益気湯を3剤与え治癒した。


  (二)暴崩欲脱


  豪子頭村老七の妻、46歳、1983年6月13日、暴崩による受診。その家に行ってみると患者は壁にもたれる様にして横たわり、顔色は青ざめて白く喘ぎ、汗をかき心悸し四肢は冷たく話すことさえもできない。脈を診ると右空大、左沈弦、舌淡。暴崩のあと気が血に随って脱し陰損が陽にまで及んでいて、急いで固摂をするため破格救心湯の普通量を与える:


  山茱茰肉120g、紅参30g、煅竜骨・煅牡蠣・活磁石・附子各30g、姜炭30g、炙甘草60g、急いで煎じ頻繁に呑ませ約1時間後に漸く危機を脱した。訊けば患者は去年ケガをした子を悲しみ、その時丁度月経期で悲しみと心配の思いで、食欲減退し月経は乱れ不正出血が止まらず、10か月の長きに達した。婦人科の診断は更年期の機能性出血であった。切ない悲しみは肺を傷つけ心配な思いは脾を傷つけ、脾と肺が傷つけば中気はもの寂しくなり統摂を主どれない。長い間治療を怠るとその災いは八脈に及ぶ。さらに五臓を傷つけ最後には必ず腎にまで及ぶ。腎の封蔵機能が失われ、故にすぐに崩漏大下となって腰痛し寝返りもうてなくなる。年も五十歳に近く天癸が将に涸渇するところである。崩漏を治す方法は傳氏の女科にある安老湯一方で、中気を峻補して肝腎を滋培する、当に証に対し帰属する。ただ八脈を損傷して気虚下陥し抜けおちんばかりなので、ぴたりと合うわけではない。《医学衷中参正録》を参照し固冲止崩湯の意で合方加減し治療を進める:


  生黄耆・九地・紅参・当帰・山茱茰肉・煅竜骨・煅牡蠣各30g、烏賊骨24g、茜草炭10g、柴胡・升麻・炙甘草各10g、三七6gと五倍子1.5gを粉末にして冲服、阿膠15g(化入)、塩補骨脂30g、胡桃4枚、3剤。


  6月21日に老七が来て、出血は全て止まり精神も食欲もどちらも良くなり、腰痛も大幅に好転したと告げた。気血を補って腎気を固め冲任を治める様に調整する:


  生黄耆30g、当帰15g、腎四味・山茱茰肉・三仙炭各10g、姜炭5g、紅参10g(別に弱火でゆっくり煮る)、阿膠15g(溶解)、炙甘草10g、烏賊骨15g、茜草6g、亀鹿膠各10g(化入)。


上方を連続して5剤服用後当初の健康を取り戻し、7年後訪れるも病気せず健康であった。


  (三)暴崩脱症


  鉄工場家族王季娥42歳、1973年9月10日午後突然暴崩の危機に瀕し便器にかなり多量の出血があり、息も絶え絶えで四肢は厥冷し、六脈はすべて無い。工場医が止血強心の注射をしたが無効で、今なお出血が止まらず寝具は乱雑に取り乱れている。元々医院に送るつもりで救急したが少しでも動かすと更に甚だしく出血した。血脱からの亡陽と治法を定め、破格救心湯合当帰補血湯を以って治と為す:


  山茱茰肉120g、附子100g、姜炭50g、炙甘草60g、煅竜骨・煅牡蠣各・紅参各30g(搗いて末にして同時に煎じる)、生黄耆60g、当帰30g、本人の頭髪炭6g(冲)、煎じた先から呑ませながら大きな艾柱灸を神闕に据える。3時30分に血は止まり厥回脈が漸く出て、黄昏時には話すことができるようになって、夜1時には蓮根の葛餅やカステラを欲しがるようになって、危機を脱した。その後多量の補血湯に紅参・山茱茰肉・竜眼肉・腎四味・亀鹿二膠を加えたものを7剤連続して服用し起き上がれるようになり、紅参・霊脂・三七・琥珀・紫河車・烏賊骨・茜草炭・腎四味を以って、これらを粉にして40日服用し健康が回復し始め、現在も健在で今年70歳になる。


                                      続く

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