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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その44

李老中医 危急重症難病治療経験


その44



(四)蛮補致崩(無謀な補は崩漏となる)


  水泥工場女工馬艶芳30歳、1984年1月12日初診、元々“機能性出血”の疾患があり、外地の医者を求めて赴き、黄耆・当帰・阿膠・生竜骨・生牡蠣の大量処方を10剤連続して服用した。月経期になっても巡らず絞るような腹痛があり、次の日には暴崩となって一日で痰壺いっぱいの下血となった。三日後には変わって滴り落ちる不正出血が七日ほど続き、血色素6g、顔色は萎黄で艶がなく、自汗・喘ぎ・心悸や不眠、脈は反って洪数、124拍/分であった。血脱の脈は細弱なので大とはすなわち病が進んでいる証しであり、気に随って血脱に変わる恐れがあるので急いで固める:


  山茱茰肉100g、生黄耆30g、当帰15g、紅参10g、五霊脂5g(削って末にして呑服)、白芍15g、沈香・四炭(姜炭・三仙炭)、炙甘草各10g、麦門冬(小米と撹拌し炒める)・五味子各10g、生竜骨・生牡蠣・活磁石各30g、3剤。


  1月19日二回目の診察:出血は止まり汗が退き喘ぎも収まった。ただ折れんばかりの腰痛があるので、原方の薬剤を小さく制限して、それに腎四味各15g、胡桃4枚を加え以って封蔵の本を固める。3剤服用後諸症は悉く除かれる。善後方に価格の比較的安い鹿茸の基底部を一つ加え以って粉にして一月余り服用し根治が得られた。


  注釈:現れた血を止血するのは血証では大いに戒めねばならないが、これは医者が容易に犯しやすいよくある病である。血を治すは水を治すが如くでいちずに塞げば、補えば補うほどに瘀となり堤防が決壊するのは必至である。効果が現れるのは一時で遺された害はいつまでも続く。補中と疏導を兼ね帰経に引血することで癒える。血証の重要な点は脾胃にあり、脾が中気を主どり気は血の帥であるから血を統め升を主どる;胃は水殻の海であり冲任を統め、降を主どるので人身における気機の枢軸である。脾の升と胃の降によって血は常道を巡る。もし胃が和降を失えば、すなわち諸経はみな降の作用を得られず気逆して火となり、火性は炎上するので血熱妄行し血は上から溢れ吐衄の病となる。証は面赤や気粗、口苦舌苔黄、脈象数実として現れる。この時急いで旋覆花代赭石湯加炙枇杷叶30gを以って肺胃の気を降ろす。気が有余してたとえ火となっても、気が降りれば火も降りて血は自ら経に帰る。たった一味の苦寒でも清火してはならず、当然胃気を護り顧みることが必要である。脾気が上がらなければすなわち血は納まるところを失い下から出て崩漏便血の病となる。証は少気懶言や面色萎黄が現れ、甚だしいと蒼白で艶がなく脈は細弱が多く寸部は尤も弱い。急ぎ補中益気湯の人参と黄耆を多量に用い、下陥していれば挙げるようにその気を峻補し、四炭を加えて温経止血、紅参・霊脂を等量研末として呑服し益気止血化瘀する;下虚していれば補気升提を用いて必ず“提脱”を防ぎ、腎四味・生竜骨牡蠣を加えて腎気を固める。脾気が徐々に旺盛になれば自ら統血ができる。四炭は脾の不統血を治す要薬であり平淡の中に神奇の効果を秘め、不快症状に多くを試したがとても頼りにすることができる。もし出血量が多くて止まらずまた汗多く喘を伴うならば、それは肝気が既に傷つき疏泄太過となって血を蔵すことができなくなっているので、急いで山茱茰肉60g以上を加えて肝を収斂し救脱する。


  血証の初期には多く肝不蔵血や血熱妄行が見られる。証は血の上溢或いは下血で、その勢いは急かつ多量、面赤で気粗くイライラして怒りやすい、目眩と胸脇痛があり口苦く脈弦数などが現れる。丹梔逍遥散を以って肝の鬱を伸びやかにし、炙枇杷叶30gは清金制木;生地黄・阿膠は滋水涵木で涼血養血・柔肝止血し、代赭石は気を降ろして火を抑え、木を平らにする。肝の病を見たらまず先に脾を実とし、梔子の苦寒性を減じた炒炭で血に入った火を瀉とすれば止血できる。生姜を焼いた姜炭3gを以って胃気を護り、加えて三七粉6gを呑服して止血化瘀し瘀を留めない、これが血証に対する最上の妙薬である。もし喘汗が見られればすなわち既に虚と化しているので、速く収斂の山茱茰肉を加え以って肝の蔵血能力を回復させねばならない。止血と養血柔肝さらに滋水涵木を以って本治とする。七味都気丸は山茱茰肉が君薬で、それに枸杞子と三七粉を加え蜜丸にして服用する。肝臓の体は陰で用は陽、また“生命の萌芽”(張錫純)であり木はよく土を克するので、もし苦寒の攻伐を過用すればこの萌芽を損ない、すなわち虚となって脾は統血できずに病はなお一層深くなってしまうだろう。巧みに肝を整えることがすなわち血証の伝変を断ちきることができ、実に重要な一環である。血証は肝・脾の二経にあって処置を間違えると一層悪化が進み即ち損傷が腎にまで及び、腎の封蔵が失われると生命の本が動揺する。おおよそ三つの型に分けることができる:一つは火の不帰原であり、熱が上がって熏蒸、燃えるような急勢、酔ったような赤ら顔、白晴の充血、鼻衄、舌衄、口舌に生瘡、烏の様な赤目など、この実火は尤も急暴である。折れんばかりの腰痛や両膝の冷え、尿多く不渇を以って区別する。すなわち腎陰の不足が極まれば、竜雷の火の上奔を制御できなくなるので多量の引火湯で―――九地90g、塩巴戟肉・天門冬・麦門冬各30g、雲苓15g、五味子6gに加え、油桂3gの粗皮を去り研いで粉にし小米を蒸して柔らかくして小丸となし、薬の前に丸ごと呑みくだせば、無根の火を引くことで腎に帰しすなわち癒える。絶対に実火に苦寒や甘寒を誤っても投じてはならない、反すればすなわち亡陽厥脱したちまちのうちに変生となる、この様な誤診誤治は極めて多く証に臨んでは慎重が宜しい。二つは腎が軽症の不封蔵の場合、ただ僅かに腰痛や喘ぎ、自汗多尿不渇に注の様な出血が見られたら、急ぎ多量の補血湯に元気を助ける紅参を加え、山茱茰肉は90g以上重用し斂肝固腎して救脱する、加えて腎四味で腎気を鼓舞し生竜骨牡蠣で腎気を固摂、姜炭で温脾止血し、阿膠30g・三七粉小量3gで血脱の危機を挽回すれば癒すことができる。重症の場合には上の型が一緒に見られるほか、四肢が温まらないか四肢の厥冷、精神疲労や寝たがる、大汗や激しい喘息、呼吸微弱、脈沈遅微細、或いは反って数極まり無秩序で七急八敗、一分間に120拍以上の脈が現れ、気が血に随って脱し陰損が陽に及び、陽は殆ど絶えんばかりで生命の危機が近い。急いで拙くも破格救心湯をまねて投じ、以って安全を保つ。婦人科の血証は八脈を注意しながら、血肉有情の品である紫河車・鹿茸・亀鹿二膠を以って腎督脈を補い、冲任脈を滋養する。各型はどれも善後方を1~2カ月服用させれば、ほとんどが治療効果をしっかりできて一生犯されない。



                                          続く

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