李老中医 危急重症難病治療経験
その45
外科急性腹症医案十則
一、闌尾膿腫合併腸梗阻
任蘭汝、女、48歳。1964年8月14日病で死にかかり、彼女の子がある新民のある村のある家から下山して診察を頼まれる。そこで道中を急ぎ午前には村へ着いた。部屋に入ってみると、患者は右側のオンドルの上に横になり苦痛で呻きながら、頻繁に汚臭のする糞便の混ざった涎を嘔吐し、頭部からは豆粒大の汗を滴らせていた。右腿は少しも伸ばすことができずに湾曲し、闌尾部はほぼ饅頭の大きさほどの塊が隆起して、外観は紅く腫れて痛みで近づくことができない。押さえると灼熱感や波浪感がある。腹は瓶の様に脹れて絶え間なく絞痛があり、既に3日通じがなくまた放屁もできない、小便は赤熱で刺痛がする。高熱で身震いがして 歯がカタカタ鳴っている。腋下体温は39.5℃。口気は汚臭がして舌は黒く割れて乾きザラザラしている。僅かに外観から既に腸瘍が膿成されて、熱毒が三焦・陽明腑実に壅閉された大病であることが判断できる。すなわち即刻県医院での手術治療に護送するように意見したが、患者は手術を恐れたとえ死んでも行かない。家族全員にひたすら哀願され、急いで助けるための方法を講じる。余の家は1939年の日本による完全侵略時に、かつて村に避難した借りがある。また患者の健康だった素体を知っており、病は5日であるがまだ虚象は現れていない。ただ症状はすでに危急で、薬を取ってきて始めるには往復2時間もかかってしまう。そこで電話で処方を伝え山上の保健駅に大急ぎ薬を送り届けてくれるよう頼んだ:
1.生白大根2.5kg、元明粉120g、上薬に水5000mlを加え、釜の中に同煎を置き、大根を3回に分けて入れ、一まとまりの煮熟を待って、取り出し再び一まとまりに換え、得られた汁を500mlまで濃縮し、採用に備える;
2.二花(金銀花)240g、連翹・生薏以仁・赤芍・桃仁泥・厚朴・生檳榔・芙蓉叶・芦根各30g、冬瓜仁60g、生大黄45g(酒に15分浸して取った汁を薬に入れる)、牡丹皮・枳実各15g、皂角刺・炮甲珠・白芷・甘草各10g、広木香・沈香各3gのすった汁を混入(これは拙くも攻毒承気湯の加味方である)。
水を薬よりも2寸余分に加え、さらに白酒100mlを加えて40分間浸せば薬物の分解が加速し、然る後強火で10分間煎じ、むらなく混ぜて得られた1000mlの汁を取り、方1と混合し2時間毎に300mlを連続して服用させ通じがあれば中止する。
3.まず舌下の金津・玉液・尺澤(双)・委中(双)を刺して、黒血を流す:闌尾・足三里・内関に捻転瀉方を提挿し、強刺留針する。待っていた薬を取り戻す頃には、すでに嘔吐は止み絞痛は軽減した。午後6時には順調に300mlを服用し終えた。2時間後腹中は絞痛し上下にゴロゴロと、絶え間なく雷鳴し頻繁にゲップや放屁をした。幸い三焦の気機昇降はすでに回復して、そこで一気に500mlを服用させると、患者は便意を催したので針を取り外したが便は出なかった、ただ痛脹は大きく緩和した。夜11時から再び300mlを服用させると夜半の2時になって、真っ黒い汚泥の様な極めて臭い硬い塊状が連なって、糞便の塊と膿血状の物を大きな便器一杯に下した。すぐに細麺を一杯捜して食べ(すでに2日間何も食べていない)ぐっすり寝入った。余は病人の家で一晩見守り、翌朝診察すると闌尾部の塊はすでに消えていたがまだ圧痛はある。舌上の黒苔はなくなり六脈もみな緩で落ち着き体温は37℃。《弁証奇聞》清腸飲の薏以仁を2倍と芙蓉叶・甲珠・皂角刺を加えて与え以って余邪を清くする:
二花90g、当帰50g、地楡・麦門冬・元参・生薏以仁・芙蓉叶各30g、黄芩・甲珠・皂角刺・甘草各10gを3剤で癒える。
闌尾炎は治療をしなかったことによって膿腫を形成し、それが酷くなって腸梗阻を合併するに至ったが、辺鄙な荒れ果てたところでしかも医者が不足し薬も少ない地区ではそれほど偶然ではなく見られる。この例は発症してから5日、ペニシリンを用いても効果なく症状は危急であった。もし闌尾に穿孔すれば容易に腹膜炎或いは膿毒敗血症を併発し、その腸梗阻ははなはだ厳しい。現代医学が認めた2つのうちもし見られるならその一つは保守療法以外の適応症である。但し余の一生でこれらの危機的重症は数え切れぬほどであるが、全部成功して一例の失敗もない。急症を上手に治す、これは中医学の特色の一つである。そしてまた効果が速く現れ費用も少なくて済む。この大症のように初めから終わりまで10時間足らずで、費用も数元以内であった。本例に用いた方剤:その一はすなわち《医学衷中参西録》の硝菔通結湯で、その軟堅潤下通便の効能は甚だ顕著であり、かつ正を傷つける弊害もなく虚弱者や老人の腸梗阻に用いて最もよろしい。その二はすなわち《金匱》の大黄牡丹皮湯に加味してできた攻毒承気湯、方中の特別多量に用いた瘡毒聖薬の金銀花は一切の大小瘍疽・腫毒悪瘡を善く治し、消腫排膿止痛の芙蓉叶と、更に薏以仁・冬瓜仁を加えた透膿散(甲珠皂角刺)は清熱解毒排膿する。並びに広木香・沈香の研磨汁を混入し、行気消脹・利水消腫の檳榔に硝菔湯を配し以って気滞を破れば、腑実は一掃し毒は便とともに排泄されて重病もたちどころに癒える。もし大柴胡湯と合方するなら多量の柴胡125gと金鈴子散(冲服)を加え、40分以内にできれば病勢を阻断し急性膵腺炎を止痛・消腫し、血象は基本的に正常に戻し患者の生命を救済するのに有効である。
続く
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