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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その5

李可老中医 危急重症難病治療経験集   その5



6.冠心病及び頻発心室性瀕脈、細動不整脈  


  中央七二五台家属 王桂梅、45歳、1998年11月27日、急性不整脈で汾局医院内科に入院。診断は“冠心病心臓衰弱並びに頻発心室性瀕脈及び細動”だが救うことができずに1時間、病状は何も改善されなかったので、その婿が電話で私に治方について尋ねた。聞けば患者の心拍は248拍/分で真心痛があり、大汗止まらず喘ぎ病状は険悪とのこと。遂に電話で破格救心湯の大量を急いで煎じ300mlを服用させるように告げた、翌日診察すると脈拍134拍/分で尿多く口渇なし、舌紅少苔、折れそうなほどの腰痛だけで危機は脱した。そこで救陰のため原方に麦門・五味子各15gを加え、一日二剤を連服させるようにいいつけた。三日目の午後頻脈は消え脈拍は84拍/分となり退院、そこで本方を平常量に変えて3剤を服用するように命じた。しっかり役に立てるように毎日1剤を服用。1年後訪れるも再発していない。



7.肺系諸疾患と心臓衰弱が見られ、久病が腎に及び陽衰で納気できず接続不能の気喘となったので、本方の通常量を投与、別に胡桃6枚(人参胡桃湯として合わせる)蛤蚧尾1対、沈香粉3g、と高麗参を一緒に細末にして2回に分けて分服することで、納気が帰腎することでたちどころに危機を脱した。



8.鼻衄が大出血で止まらず、一昼夜で洗面器に半分ほどに達し、顔色は酔っているように赤く、脈は速く激しい大波のようでいて強く押すとなくなる。これは陰虚に属し、下から龍雷の火が上奔した陰尽陽亡の変であり、寝につく頃の時刻に寒涼清熱で止血できずに切れた。すぐに本方の平常量と引火湯(九地90g、塩巴戟肉・天門麦門冬各30g、雲苓15g、五味子6g、油桂2gを米で丸めて先にのむ)を投じると、滋陰配陽と引火帰原によって一服で止まった。救急鼻衄で大量出血し危険な状態の50数人を、本法によってみな治癒した。



9.茶碗やボールにいっぱいの吐血や大喀血、或いは婦女の崩漏出血が止まらなかったり、或いは鼻衄が夜通し止まらない、或いは大便の慢性出血が永い日々止まらなかったりして、突然四肢が冷たくなり大汗をかいて顔色も紙のように白くなり息も絶え絶えになったら、これは気が血に伴って失われ、いわゆる陰損及陽となった状態である。脾と腎の陽が衰え血液を統摂できなくなった。すぐに本方平常量を投与する。竜骨牡蛎は焼いて用いる、山茱萸肉は120gまで加える、乾姜を姜炭にして10g、三仙炭各10g、血余炭4g(冲)、生黄耆30g、当帰身15g、阿膠20g、九地45g、滋陰救陽を以って益気止血し固脱する。 



  曾治霊石房管所所長 武榮、41歳。胃潰瘍大量出血で危篤。晋中康復医院の診断は十二指腸潰瘍と幽門部梗塞不全で、血色素5g、大便潜血(++++)。夏の終わりに酒の飲み過ぎにより茶碗に一杯ほど吐血し、青味がかった糊状の黒便を滴らせたので、外科に緊急輸血のため入院した。診察を受けると体質があまりにも弱いので暫らく手術はよくないとのことで、入院1週間後家で療養するように帰された。1963年9月16日診察すると患者の顔色・唇・指は白紙の様で、食べれば直ぐに吐き眠気で朦朧とし、四肢は冷えめまいして起き上がれず、動けば喘ぎ汗が出て口渇はないが多尿、脈遅細弱、脈拍48拍/分であった。証は脾虚による統血不能に属し、血証が長引いたために陰損及陽となり気が血に随って脱して、すっかり亡陽の危険な象が露わになってきた。度々嘔吐し薬を飲み下すことができなかったので、急いで標を治す方を与える:


  赭石粉・生半夏・高麗参(別対)・雲苓各30g、呉茱萸(洗)・炙甘草各15g、鮮生姜30g、姜汁20ml、大棗12枚。


  煎じた濃汁300mlを取り昼夜分かたず少量ずつ何回も服用させ吐き気が止まってから再び診察。午後3時、薬を服用して2時間後に吐き気は止まり牛乳一杯とカステラ一切れを食べられた。いよいよ破格救心湯通常量を投与するが、竜骨牡蛎は焼いて用いる、山茱萸肉は120gまで加える、姜炭・三仙炭各10g、これに“三畏湯”(人参・霊脂・油桂・赤石脂・公丁香・欝金、各種潰瘍を治す効果がある)に似させて当帰補血湯、亀・鹿・阿膠各10g(化入)、これを1剤服用させたら、大便潜血(-)となった。6剤服用後血色素は9gまで上昇した。一日500gの食事を許され、出入りも自由で午前中の仕事も始めた。そこで加味培元固本散に似せて(三七・風鳳衣・煅牡蛎・大貝・内金・魚鰾膠珠・琥珀・高麗参・鹿茸・血竭・全胎盤・蛤蚧)病根を元から断ち、1ヶ月後康復医院で再検査をしたところ潰瘍は全治していた。30年後訪れると手術前よりもさらに健康だった。この法によって治癒した各種潰瘍の重症例が300以上ある。


  また霊石鉄工場家属 王季娥、42歳、1973年9月10日昼、突然崩漏、便器に多量出血し、その出血が1時間たっても止まらず、顔色は紙のように白く、四肢は氷のように冷たく息は絶え絶えで、六脈とも無く下三部の太渓脈だけがあるようなないような、工場医に止血と強心剤を注射してもらうが効果なかった。ついに血脱から亡陽を引き起こした。破格救心湯の大容量と当帰補血湯を与える。竜骨牡蛎は焼いて用いる、乾姜は姜炭にかえて50g、本人の頭髪で作った炭6g(冲)を用い、午後2時50分これらをお湯で強火で煎じ、でき上がったそばから流し込むように飲ませ、さらに大きな艾灸を神闕に据えると、午後3時30分出血は止まり、漸く脈が戻ってきた。黄昏時になってやっと話ができるようになって、早朝1時にくず粉やカステラを食べたがり、危機を脱した。その後本剤大容量と当帰補血湯に紅参・山茱萸肉・龍眼肉・腎四味・鼈甲鹿茸の二膠、これらを七剤連続して服用させたら起き上がることができたので、培元固本散を加減して40日服用させたら健康が回復し始めた。本方を加減して婦人の多量出血21例を治したが、その内訳は、子宮頚癌末期2例、子宮内膜症3例、更年期機能性出血11例、原因不明の暴崩漏5例、どれも8時間以内に危機を脱することができた。ただ1例子宮頚癌による死亡を除いて全員救うことができたし、全ての症例が培元固本散を30日前後加減して服用することで、みな根治を得られた。



10.上記症状に、もし腰痛症状が一緒に見られたらそれは腎虚腎精不足で根本の基礎が固まっていないためで、症状が緩解したあとに必ず多くの波乱が起きる。その様な時には腎四味(枸杞子・菟絲子・塩補骨脂・仙霊脂)各15~30g、胡桃6枚(打)を加えて温養肝腎するが宜しい。虚の状態が甚だしい時には、少量の血肉有情の品たとえば鹿茸粉・胎盤粉・鼈甲鹿茸の二膠などを加え先天の精を補い病状が安定してから培元固本散を1~2ヵ月服用すれば受損臓器を修復し人体の免疫力を建て直す根本治療となる。



11.ひどい寒さと長患いで冷えた諸症状によるほとんどの危機的段階は、とりわけ風心病の心臓衰弱の段階で多く見られる。病人はいつも冷気が臍より下から腹に沿って正中線を上に突き上がるように感じて、発作を引き起こしながらそれが喉まで達し、滴るほどの大汗をかき人は昏倒する、これに似た例が《金匱》に“奔豚気”として述べられている。すなわち陰陽が互いに繋ぎあえずに、陽が上から脱してしまう危険な症状の一つである。急ぎ本方の通常量に煅紫石英30g、油桂粉・沈香粉各3g(冲)を加え投与すれば、まっすぐ肝腎に入りひどい寒さと長引いた冷えを破り、脈を安定させ呑み下せるように直ぐに効果がでる。



四.結語



  破格救心湯の創造は、継承発揚を受けた古き賢い先人の四逆湯類方が救治した心臓衰弱の成功経験、並びに手本とする近代中西医結合の先駆者である張錫純先生が救治した各種心臓衰弱ショック時の学術経験などから、大胆に一歩を踏み出して大量の附子と山茱萸肉を用いたことにある。40年間何度も臨床験証を経て、本方は古代及び現代の同類方剤と比較して全面更新、有効率更新、体を整えて力を集中できるようにし全身衰弱状態を手直ししてくれる。各種各型の心臓衰弱における危機的症状を救治する分野にあって、瞬く間に死んでしまう命を救うばかりでなく、古代医籍に記載されている五臓絶症や絶脈など必死の症である禁区及び現代医学においても治療を放棄されて瀕死の重病人さえも解決した。本方を使って一度経験をすれば、多数の起死回生をすることができる。ただ中薬の湯剤は煎じるのに時間がかかりすぎて、救急救命時に助けられないほど遅いということや病機を誤ったりすることから逃れられない。もし大量の臨床実験研究を通じ、主薬を選別したり剤型を改変したり静脈に薬剤を点滴したりして、この領域で重大問題を解決できれば、21世紀世界に向けて走る中華医学が全人類の生命健康のすばらしい業績を上げることができる。

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