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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その7

李老中医 危急重症難病治療経験集


その7



風心病と合併した冠状動脈硬化性心臓病



  孝義県吴西庄学校教師 張巧愛、40歳。1980年夏に来診。病瀝:風心病、二尖弁狭窄・閉鎖不全、心房細動、心臓衰弱Ⅲ度;冠血の供給不足;肺の瘀血がすでに10年にわたっている。北京阜外医院は二尖弁分離手術を行うつもりだがまだしていない。


  現症:動悸・息切れ・咳血、動けば更にひどくなる。毎食時に激しい動悸がする。それゆえ毎食時には心配して不安がる;そこで心中びくびくしながら茶碗を両手で平らに持ち上げている。動悸しないように食べては止め食べては止め一回の食事にいつも2~3時間も放っておかれた。脈拍は常に170~210拍/分前後。促脈で四肢厥冷、胸悶刺痛、唇・指・舌は青紫。汗は滴り腰が折れるほど痛む。血圧70/50 ㎜Hg。左側を下にしないと寝られない、もしそうしないと咳でむせ返り動悸が止まらなくなる。


  思うがままに証を見れば、心の陰陽両虚、陽虚偏重である。長患いが虚損を成し、脾胃の中気が大いに傷つき、子盗母気ゆえに、食事が動悸をひどくしている。だんだんと五臓が栄養失調に至り、先天の腎気は消耗し、ゆえに腰が折れるように痛み(腎が極度の疲労)、喘息(腎不納気)、自汗(真陽固失)、厥逆(命門の火が四肢末端の温煦を主ることができない)、敗脈(七急八敗や散乱し取り散らかった脈)などが現れる。その上虚は必ず瘀を伴い瘀は心脈を阻むので、胸悶刺痛となる。炙甘草湯・参附竜牡救逆湯・丹参飲を合方加減し、さらに腎四味と桃仁・紅花を加え、温腎回陽、通脈化瘀、滋液救心で治となす:


  炙草30g、附子30g、生地・麦門・紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)・霊脂・生竜牡粉各15g、丹参30g、檀・降・沈香殻10g、砂仁(突き砕く)5g、阿膠(溶かしたもの)20g、桂枝・桃仁・紅花・五味子殻10g、腎四味120g、生姜10片、棗10枚、胡桃4枚打、21剤、10日ごとに7剤。


  一ヶ月後、動悸は止まり喘息も静まったし、四肢の冷えと紫紺色も消失、細動は起きていないし腰の痛みも治った。食欲がでてもう心悸もない、胸悶刺痛は10剤を服用した時から全くなくなっている。脈細弱、脈拍92拍/分、ただ月の初めにかつて出現した症状がまた出たという。さらに細かく問いただすと、10年来毎月の月経のたびに必ず風邪をひき、1回風邪をひくたびに症状は悪化するということが分かった。その症状は月経前日に突然虐のように寒熱、嘔吐、難聴し、月経が終わると治る。これはすなわち六淫の外邪の永い拘束によって、その邪が表より裏に入りさらに深く血分にまで達し透達ができなくなってしまった、いわゆる《傷寒論》の熱入血室の証で、そこで成り行きをみてうまく導くように、血分に入った邪を引っぱりだす小柴胡湯加味を与える:


  丹参・当帰・坤草・生半夏各30g、赤芍15g、沢蘭叶・酒香附各12g、柴胡・紅参(別にとろ火でゆっくり煮る)・霊脂・川芎・酒芩・乾姜(炒)・桃仁・炙甘草各10g、黒芥穂6g、生姜10片、棗10枚を6剤、毎月月経前日に連続して3剤服用する。別に:全胎盤100g、鹿茸・虫草・紅参各30g、蛤蚧6対、三七100g、琥珀30gを粉にして常に服用し培元固本とする。


  1983年12月、患者はとても親孝行な長女と一緒にお礼に来た。患者が云うには二度目の処方を服用後月経前の感冒はすっかり起きなくなった。風心病によるものは除かれ、自覚症状はなくなった。体質は強くなり歩くのも普通の人と変わらないほどで近々仕事に復帰するつもりだという。


  考察:臨床観察から風心病の多くは表より邪が裏に入ることに由来する。ただ病気の経過が永く多くの病人が病気になった原因を覚えていないし、医者もまた対症療法のみで根本療法をしていない。薬剤の投与が隔靴掻痒でものの役に立たず、又は投薬して暫らくは治るがその後必ず再発する。私の臨床経験では、長患いで効果のないものや反復発作の重病・頑症・痼疾、或いは季節の変わり目の病や職業病などには必ず六淫の外邪が深く潜伏している。“傷風は目覚めず結核に変わる”これは民間の諺ではあるが深刻な病理・病機を言い当てている。人の中の邪は、最初は必ず表にある。治療に失敗すれば表から裏に入り、正気が虚となるほど邪はますます深く入り込む。病邪が血分に深く入りとどまると五臓を侵し始め、治療上にあってはすなわち“半死半生”の局面となる。ただしすでに邪が潜伏していれば必ずその兆しがある。病邪と正気は相争い古い病は発作を起こす、すなわち病邪が居座っている経絡と臓附を示している。この時、成り行きを見てうまく導くように、正気を助けて突き通すように常に病巣を一挙に破るべきである。故に《内経》には“善治者治皮毛”と云い表証の立法となすだけでなく、重証・難証・痼証を立法する宝でもある。“諸病はまず先に解表するべし”このような一条は極めて平淡な治法であるが、かえって神奇的な妙用がある。本病例は重病10年、病邪が血室に入って10年、毎月の月経前の発病は本症の奥秘を暴露した。だから小柴胡湯に生丹参を加え、血分に深く入る黒芥穂の一味を以って、益気扶正、活血温経、表裏を和解させ10年来の伏邪を外に浸みださせ、これから平坦な歩みとなるように長患いから回復させた。またかって治した多くの例で心臓衰弱水腫の患者は、その病程の多くがまちまちであるが10~30年にわたり、どれも外感寒邪の病歴があり寒邪が少陰に深伏していたと考えられ、あらかじめ対症方の中に麻黄・細辛を加えて升堤肺気、透発伏邪すれば微汗のあと水腫は速やかに消退して癒えた。私見ではありますが臨床の参考になれば幸いです。

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