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執筆者の写真kampo shinsendo

中医火神派 李可老中医医案翻訳 その9

李老中医 危急重症難病治療経験集


その9



1.張春花、女、44歳、山西霊石県原頭村農婦。


1998年11月7日初診:


  20年前産後に寒邪を暴感し咳喘を患い、それがいつまでも治らずいつも季節の変わり目や気候の急変のたびごとに病状が悪化し、遂には持病となってしまった。最近では常に感冒に罹っていて最後には喘息で歩くこともできなくなってしまった。10月初め省二院呼吸科へ行き半月入院、CT検査の診断では“特発性肺間質繊維化合併肺心病”と診断され多量激素療法・酸素吸入法など無効であった。心臓と呼吸が日に日に厳しさを増し、危なくなったので退院。


  診察すると患者はやせ細り、この7カ月で体重が15kgも減少、顔色は青黒く両目はうつろで声はなく、肩で息をして喘ぎ息も絶え絶えである。唇と指は青紫で指は杵状、下肢は陥没性浮腫。喉からは痰がゴロゴロと鳴り、咳をすると白く薄い痰を吐く。四肢は冷えきって手は肘まで、足は膝まで冷たく、脈は速く脈拍は133拍/分(頻発心房性頻脈)。舌胖、苔灰膩、両側に筋状瘀斑がある。ただ趺陽・太冲・太渓の三脈はまだ乱れなく指に応え、よく食べることができることから胃気はまだあり、亡陽厥脱の諸症がみられるとはいえどもまだ引き戻す機会がある。破格救心湯の大剤によって救陽固脱をまず先にして、参蛤散で納気帰腎し、麝香で汚れや痰濁を化し上窮を開くことで呼吸衰弱を救う。


  附子200g、乾姜25g、炙甘草60g、山茱萸肉120g、生竜牡粉・活磁石粉・煅紫石英粉各30g、生半夏・雲苓・鮮生姜郝45g、(高麗参20g・蛤蚧尾1対・麝香1gを粉にして分服)。


  お湯を2000ml加え強火で1時間煮沸し、たびたび煎じては服用させ、昼夜連続して3剤服用させた。


  11月8日午前2回目の診察:


  昨日10時20分から薬の服用を開始、一回に一匙~二匙ずつを約10分間与え、それを1回としてその後七回ほど服用させ、三分の二ほど飲ませると激しい喘息や引きつけの咳が止まり、上肢は温まり寝返りがうてるようになってほぼ危機は脱した。その後30分毎に約100mlを服用させ、早朝の1時に2剤を全て服用し終わってから約2時間熟睡した。目覚めた後痰鳴は一度になくなり、あの酷く暗い20数日を経て最初に出た言葉が、一杯のタン麺が食べたいで、夜明けまでに3剤を服用し終わり再び入眠。


  四診の所見から、本病は非常に難治で病が改善したようにみえてもなお陽根は固まってなく、なおざりにするべきでない。



1.久病は気血を消耗し尽し、陰は涸れて陽は亡び息も絶え絶えで、これは大虚である。一昼夜で附子を600g用いて手が温かくなったといえども下肢は以前のごとく氷の様に冷たい。ほんの少しだけ残った陽が挽回できるか否かが生死の鍵を握っている。


2.肺葉が枯れて萎縮し、湿痰や死血が深い病巣を占拠して、これは大きな実証である。繰り返し発病し、正気が虚となればなるほど邪気が実となる。“繊維化”は肺葉の実質損害であり、現代医学は治らないと断定され、針や薬を施しても難しく治る見込みがない。肺は嬌臓であって、病巣を直接霍乱し突然の変わった手段を用いてもいい腑の実邪や悪性腫瘍のようでなく、攻補どちらも難しい。


3.最近の半年は背中に冷水を注いだような、氷の貯蔵庫へ入ったような感覚で、夏でも木綿の衣服が離せなかった。その次の重病は月末で、始終悪寒がして汗なく全身が太い縄で縛られるようで、胸を塞ぐようなうっとうしさと背に突き通すような胸痛があった。病が20年といえどもなお、小青竜湯の主証は変わっていない。営衛が閉塞し寒邪は冰伏して、少陰亡陽と太陽表実が同時に見られ、本病はなかなか解けない結び目を形成した。



 病機はすでに明らかで、営衛が内は臓腑に関連し外は皮毛に合し、人身が外邪を防ぐための第一の防衛線であることを知るべきである。邪の入路であるからには、また当に邪の出路でもあるのだ。《内経》に“善く治す者は皮毛を治す……”また“諸症はまず先に解表す”で開門して盗賊を追い出せと主張している。喩昌が創った“逆流挽舟法”に次のように述べられている“……邪が裏に入って100日の長きにわたってもなお、邪を裏から表へ引っぱりだすべきである。もし裏から去れば終わりではなく死でもない!”論ずるところ痢疾が表湿を挟み内陥した者を立法したと云ってもそれは万病にひとつで、凡そ沈寒痼冷の諸症で外邪は裏の深くに入り込み冰伏して出にくくなった時は、汗法でなければこの堅く結びついた病を解きほぐすことができない。そこで類似処方の一方で、手本としての麻黄附子細辛湯の意味は、元陽を助け閉じた表を開き、冰伏の邪を外透させることの期待である。煎じたら何回も分服し正気を傷つけずに汗を保っているか報告させる:


 麻黄30g(別に煮汁150mlを用意する)、細辛20g、附子200g、乾姜25g、炙甘草60g、山茱萸肉120g、生半夏・雲苓・鮮生姜各45g、葱白3寸、(高麗参20g・蛤蚧1対・麝香0.5gを粉にして分服)。


 水2,000mlを加え、とろ火で煮て600mlを取り3回に分けて服用、服用時間は正気を助けるために午前に陽気が旺盛な時間帯を選ぶ。毎回麻黄汁と一緒に服用させ汗が出たら服用をやめる。

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